「42万人死亡」西浦教授の乱?

中村 祐輔

西浦博氏(国立科学技術振興機構「POLICY DOOR」引用)

専門家会議のメンバーである西浦博・北海道大学教授は、「何も対策をしないとコロナウイルス感染で呼吸器が必要となる重症患者が85万人で、42万人が死亡する」と発表した。重症者の死亡率は49%という。約80%が軽症・無症状者であるので、感染者は400万人を超える試算になる。

これが厚生労働省の専門家会議の公式見解なのか、個人の見解なのかわからないのも、日本のメディアの曖昧なところだ。1週間5日勤務をローテーションで1日だけ働くようにすると、80%減になるとも発言していた。通勤電車も好ましくなく、もっと時差出勤をすべきと言っていた。官邸や厚生労働省はこの発表をどのように受け止めているのか?

本来、このような発言は国のトップが行うべきものだ。メルケル首相も、ジョンソン首相もロックダウンする際に数字をあげて、国民に訴えていた。この国のトップは何をしているのだ。あまりにも弱弱しく映ってと見えるのは私だけか?行動制限を強く求めている都道府県のトップや医師会のコメントをどう受け止めているのか?もたもたしている給付金配布に対して与党である公明党からも批判が出ている。政権中枢の政治家に国民の声が届いているのか?

そして、今の状況で接触80%減が達成できると思っているのは、あまりにも世間の感覚からずれている。朝8時台に品川駅に行ってみるといい。願望だけで、それが実現されるなら、日本はメルヘンの国だ。

そもそも、エッセンシャルワーカー(この人たちが勤務を止めると社会が即座に動かなくなる人たち)は約30%いるという。このエッセンシャルワーカーは医療従事者だけではない。ドラッグストア、生活に必需品を供給するスーパーやコンビニなど、そして、物流関係者、郵便局や公共交通機関で働く人たちもそうだ。役所、警察官、消防署職員、救急隊員、ごみ収集作業、銀行で働く人たちなども社会生活を維持するために不可欠なのだ。個人情報を扱う企業も、在宅勤務は個人情報の漏えいリスクにつながる。

スーパーや物流、ごみ収集が5日に1日の稼働となれば、世の中が動くはずがない。エッセンシャルワーカーが仕事を続けることを前提とすれば、接触80%減を達成するには、それ以外の企業活動をほぼ止めるしかないのだ。いったい、誰がこんな中途半端なコロナ対策を差配しているのだ。

先日、フランスのメディアの取材を受けたが、感染症対策の責任者が経済担当大臣であることは、フランス国民には信じられないという。私も、この現実は信じがたい。ある感染症対策病院では、職員に近くのホテルの宿泊補助をしているという。もちろん、病院負担だ。どこに目を向けてコロナ対策をしているのだ。

この「西浦の乱」ともいうべき発表を受けて、国はどうするのか?

もし、一律10万円給付が実行されたら、経済的に余裕のある方々に呼びかけ、感染症対策に携わっている病院の職員向けの寄付活動を始めよう。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年4月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。