確か安倍首相は全国民に一律10万円を配ると発表していたと思います。国民とは国籍を有するものであります。ですが、今回の支給方法のプロセスは住民基本台帳に基づく、とあります。つまり、住民票が日本にある人ということになります。これは安倍首相の表現に重大な瑕疵があったということになります。
英語で国籍所有者と住民は別々の言い方をします。citizenとresidentです。通常、residentの定義とは国籍所有者、永住権取得者、一定の居住許可を持つ当該国の居住者であります。短期滞在者は含まれません。これは海外では常識なのですが、どうも日本はこの認識が十分に浸透していないように感じられます。今回の10万円の給付は全国民ではなく、正当な居住者への給付であります。
ちなみに日本国民とは憲法10条に定めがあり、その規定を法律に委ねていますが、もちろん、海外居住者を除くとはどこにも記載されていません。
実はこの10万円の報道が出始めた1週間ぐらい前にある役人にメールをして「我々はまた『非国民』になるのでしょうかねぇ?」と聞いたところ、「テレビにでも投書したらどうですか?」とお互いに冗談めかしたやり取りになりました。
リーマンショックの際、麻生総理(当時)が12000円の定額給付金をばら撒くにあたり海外居住者(=日本に住民票がない人)ははじかれました。海外に居住する日本人は約140万人に上ります。その方々が今回の新型肺炎でその居住する国々の状況に応じて「居住者」としてのベネフィットをもらっているはずなのでもちろんこの10万円を欲している人は少ないと思います。
ただ、安倍首相が「全国民」という表現を使ったことに非常に違和感を覚えたと同時にどうせ、麻生さんのことだからまた住民基本台帳ベースになることは想定していたので海外居住者を除外するなら端からその旨、きちんと説明すべきであったと思います。
次にこの10万円、先日、テレビの番組参加者が「もらわない」と挙手をした人が結構いたのが印象的でした。本当に受給を遠慮するのでしょうか?
前回の定額給付金の時もたしか、「俺はいらない」「十分に貯金あるから」という街角インタビューがあった記憶があるのですが、実際には内閣府のその後の調査資料に「平成22年3月 31 日時点では,対象世帯の 97.7%に給付済みとなり,給付済み金額の合計は予算額の 99.0%にあたる1兆 9,367 億円となっていた」とあります。97.7%というのは全員と考えてよいでしょう。いらないといった人はどこに消えたのでしょうか?
産経新聞によると今回も給付の申請書が世帯主宛に送られてきて、そこに住民票登録された家族の名前が書いてあり、それに必要事項を記入して提出すれば受給できるという仕組みのようです。外から見ているとここが不思議なのです。そもそも申請書を家に送ってくるという親切心はいらないと思うのです。欲しい人がネットで申請すればよいし、多くの会社では給与絡みで扶養者のリストは持っているので会社経由で申請する手もあります。支給も会社員には会社の給与システムを通じて支給する手もあります。
ところで国際線の飛行機に乗っていると国内航空会社と海外の国空会社ではサービスの基本が違うのをご存知でしょうか?海外の航空会社は最低限のことしかサービスしません。日本の方はそれを見て「この会社は気が利かない」というのですが、発想そのものが全然違っており、サービスを求める人が自発的にそれを要求するという考え方なのです。
一方の日系の航空会社はサービスを押し付けます。たとえば人が本を読んでいてCAさんと視線を合わせないと飲み物なりキャンディーを人の目線に入るように無理やり差し出してくるのです。これには勘弁してほしいのであります。今回の10万円もある意味、「押し付け」とも取れるのです。
日本は親切です。しかし、今や様々な方法で自分の意思を表明し、それを得ることができるインフラは整っています。それにアクセスできない必要な人だけ電話等で申込書をもらえばよいでしょう。
申込書がなければ遠慮しておくよ、という人は増えると思います。今回の給付金、果たして何%ぐらいの方が申請するのでしょうか?案外、ほぼ全員になるような気は致しますが。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年4月21日の記事より転載させていただきました。