食肉大手タイソン・フーズが26日、ワシントン・ポスト紙など複数の大手新聞社に一面広告を展開し、大きな話題となっています。
同社のジョン・H・タイソン会長は、広告で「食品サプライチェーンが崩壊しつつある」とショッキングな声明を発表。生産工場閉鎖に伴う流通する食肉・加工品の不足をめぐって注意喚起しました。同時に、生産工場閉鎖に加え外出禁止措置や在宅勤務を受け混雑する配送業などの問題も重なり、日本と同じく給食やレストラン向けの消費が落ち込み供給先を失った結果、食肉用に飼育された牛、豚、鶏などを殺処分せざるを得ないと警鐘を鳴らします。
新型コロナウイルスが猛威を振るうなかGMやフォードなど自動車工場の閉鎖が話題になりましたが、タイソン・フーズも例外ではありません。同社は従業員約2,800人が新型コロナウイルス感染による病欠を申し出たため、アイオワ州ウォータールーのほかインディアナ州ローガンズポートの生産工場の閉鎖を決定しました。なお、ローガンズポートの生産工場だけで、1日に300万ポンド(約1,360トン)の豚肉を処理していたといいます。
画像:タイソン・フーズ、豚肉のほか鶏肉、タマゴ関連など幅広い商品ラインナップ。
(出所:theimpulsivebuy/Flickr)
同業で豚肉生産で世界最大手のスミスフィールド・フーズ(親会社は万洲国際有限公司)も、サウスダコタ州スーフォールズの工場で783人の集団感染を受けて閉鎖に踏み切り、イリノイ州セントチャールズの加工工場も後に続きました。ブラジルに拠点を置く食肉大手JBSも、ミネソタ州ワージントンも77人の感染を受け工場の操業を停止。タイソン・フーズを合わせ、全米の豚肉生産の15%に相当する3社の生産工場が閉鎖に追い込まれました。
豚肉だけでなく牛肉や鶏肉も同様の事態は回避しづらく、4月初めに3年半ぶりの安値をつけた赤身豚肉や生牛の先物価格が切り返しつつあります。ただ赤身豚肉の先物価格は27日に55ドル台へ上昇したとはいえ、16日の39ドル割れから底打ちした程度で、新型コロナが問題視される以前の1月初めの88ドルに遠く及ばず。それもそのはず、20日に原油先物5月限がマイナス価格に陥ったように、清算日を控え価格が急落するリスクも見過ごせませんから。こうした問題は、大豆やコーヒーなど、他の商品先物にも言えるのではないでしょうか。
そうなると、米国が豚コレラを背景に豚肉をめぐり3桁の上昇率を記録した中国と同じ轍を踏むとは想定し難い。短期的にはタイソン・フーズの供給先であるマクドナルド(ちなみに米国でハンバーガー牛肉100%)を始めファースト・フード・チェーンが高級食に様変わりするリスクは低いと言えそうです。
一方、食品関連の価格は過去を振り返ると今後上向く余地を残します。配送関連は比較的落ち着きを示す半面、4月ベージュブックで確認できる通り安全面の問題と人手不足もあって人件費が一部上昇しつつあることも事実です。こうした現状を反映し、3月の平均時給の前年比は20ヵ月連続で3%超えとなり、3月の消費者物価指数でも食費は2ヵ月連続で前月比0.5%上昇し前年比でも5ヵ月ぶりに1%台に乗せ、肉類・卵・魚なども前年比で約2年ぶりの水準へ切り返しつつあります。前回、景気後退を迎えた当時も一度下落してから2010年から2012年半ばにかけ前年比6%超も上振れしたものです。そういえば、景気後退時には料理チャンネルの需要が高まったという実績もありましたっけ。
(作成:My Big Apple NY)
生きていく上で必要不可欠な食料品の物価が上昇しても、おかしくないというわけです。まさにFood for thoughts、今後のコロナ禍を見据える上で考えるべきネタと言えるでしょう。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2020年4月28日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。