新型コロナ禍:首長に求められる5つの資質

高橋 富人

新型コロナウイルス禍が日本を覆いつくし、長い時間が経ちました。

この有事における日々の生活の中で、私たちは自治体の力と限界を見せつけられています。もちろん、何もかもを自治体任せにする態度は問題がありますが、自治体の管轄や判断に属する事項は多くあります。

有事の際の「自治体の能力」とは、緊急出動できる予算の多寡を別にすれば、意思決定の責任を負う首長のそれとほぼ同義であることが明らかになってきました。

若手首長として新型コロナへの対応が注目される熊谷・千葉市長、吉村・大阪府知事、鈴木・北海道知事(千葉市サイト、吉村・鈴木両氏ツイッターより:編集部)

市を監視・監査する役割を担う市議会議員の一人として、また政治家の役割の一つとして、首長に求められる資質に関する考えをまとめておきたいと思います。

首長に求められる5つの資質

千葉大学教授・東京大学名誉教授の大森彌氏が2004年に執筆された小論が、とても参考になりました。

覚悟と責任を問われる首長職(全国町村会)

大森教授は、首長は3つの能力が問われる、と説きます。

①表現の能力

他の人よりも早く、人々の悩みや困難や願望を見抜き、それを具体的な言葉・表情・動作で表すことができる能力。付言すれば、対面式のタウンミーティングや役所内の会議、議会等での議論、記者会見に加え、昨今ではネット動画やブログやSNS等を駆使した総合的な表現力が問われていると考えます。

新型コロナ禍の、戦時下ともいえる有事にあっては、まずしっかりここを捉えて、首長の言葉で表現することが大切です。「人々の悩みや困難や願望」をすくいとることなしに、実効性のある政策を打ち出すことはできないからです。

その意味で、政府発表に多少手を加えただけの「お役所表現」のアウトプットしか出せていない首長は、この能力に欠けた人物であると言えるでしょう。

②決定の能力

大小の意思決定を的確に、タイミングをはずさずに実施する能力。私なりに補足をすると、役所の担当部から上がってくる課題や市民からの訴えを、大局的にみて、冷静に優先順位をつける能力や、自分が持つコネクションを駆使して国等から有利な条件を引っ張ってくる胆力も、大枠で「決定の能力」と仕分けできるように思います。

現在、日本全国の市長はほぼ例外なく本気で、「私は精いっぱい仕事をしている」と思っていることと思います。しかし、その仕事ぶりが、例えば「声の大きい人」との会合で終日費やされていたりしてはいないでしょうか?

首長は、「決定の能力」を担保するため、自らを常に大局的判断できる立場に置いておく自立的なマネージメント力が求められます。どんな仕事にも「やった気になる業務もどきの無駄」は存在します。選挙で大切な人々に偏重した時間割の中で右往左往して、肝心の決定がおろそかになっているようでは、有事の首長としては失格です。

③正統化の能力

ある政策について、やるorらない、あるいはどの程度までどのようにやるのかを説得的に説明する能力。最初の「表現の能力」に近接する能力と考えられますが、ここで大森教授が述べているのは、もっぱら「人々の悩みや困難や願望」を察知・表現したうえで、ロジカルに当該政策決定が「正統なものである」と説得する能力を指していると読めます。

私は、大森教授がいう以上3つの他に、追加して2つの資質を上げさせていただきます。

④情報収集能力

市民、市役所職員、議員、他自治体の事例等から、有用な情報を、できる限り多く、偏りなく収集する能力。これは、話しやすい雰囲気を作る人間性であったり、極端なイデオロギーの偏りを排除した思想性であったり、情報収集できるチャンネルをバランスよく獲得する嗅覚であったりするのだろうと思います。

また、現在の首長であれば、ITに関する一定の素養は必須といえるでしょう。これがあってはじめて、大森教授のいう各種能力を担保できるのだと考えます。

⑤結果責任を負う覚悟

政治家は結果責任を負う存在です。仮に先に挙げた4つの能力が高かったとしても、実施した政策が誤っていた場合、いさぎよく結果責任を負う覚悟が求められます。

新型コロナ禍が始まってから、「うちの首長は何やってるんだ?」と思う程度のプレゼンスしか発揮できていないような首長は、首をすくめてなんとか結果責任をやりすごそうとしていると、市民県民から判断されることになるでしょう。

大森教授が言う「表現の能力」や「正統化の能力」は、弁舌さわやかにして切れ味鋭いトークや表現力を意味しません。市民からの声にしっかり耳を傾け、総合的かつ慎重になされた判断を真剣に伝えようと努めるならば、訥々とにせよ、多少分かりにくかったにせよ、多くの市民は耳を傾け、納得します。その努力をしないならば、政治家として当然の報いを受けることになるでしょう。

各所で言われておりますが、政策の成否はひとまず置くとして、大阪府、大阪市、千葉市、つくば市、北海道など、地方自治体の首長が命がけで前面にたってリーダーシップを発揮している姿があります。彼ら首長は、シンパにせよアンチにせよ、以上挙げた5つの項目をある程度網羅的に抑えていると認めざるを得ないのではないでしょうか。

皆さまの住む県や市の首長が、有事の際の首長としてリーダーシップを発揮しているか、これを機会にぜひ確認してみてください。