レムデシベルの臨床試験

中村 祐輔

4月29日のLancet誌(オンライン)に「Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial」というタイトルの論文が公表された。新型コロナウイルス感染症に対するレムデシベルのランダム化二重盲検試験結果を報告したものだ。英国の雑誌なので米語とはスペルが異なり、 “randomized“ が”randomised”に、”multicenter”が”multicentre”になっているが、スペル間違いではない。

レムデシベルの化学構造(Wikipedia:編集部)

結果部分の簡単なサマリーは、「2020年2月6日から3月12日の間に、237人を登録して、ランダムに二つの群に分けた(158人がレムデシベルを、79人が偽薬を受けた)。一人の患者はランダム化後に離脱した。レムデシベル群は臨床的改善には結びつかなかった (ハザード比は1.23 [95% CI 0.87–1.75]、{この95%CIの幅が1を挟んだ値になっていると統計学的に意味のある差がない})。

そして、統計学的に差はないが、臨床的改善に至るまでの期間が10日間弱短かったとあった(ハザード比 1.52 [0.95–2.43])。副作用に関しては、レムデシベル群では重篤な有害事象による中止が18例(12%)であったが、偽薬群では4人(5%)であった」。

普通の臨床試験では、治験薬が効果があると見なされない数字であるが、臨床的に改善するまでの時間が短いことに意味があるそうだ。日本でも今週中に承認されるようだ。このレムデシベルは注射薬だが、日本で開発されたアビガンは経口薬であり、「診断時には軽症だが、重症化しやすい高リスク群の患者さん」に投与するには経口薬の方が適していることは言うまでもない。

「催奇形性が高いという重篤な副作用があるので慎重に」と指摘する専門家がいるが、ハッキリ言ってアホだ。この薬剤は、条件付きであるが、すでに新型インフルエンザ治療薬として承認されている。重症化しやすく、死亡率の高いのは、私のような高齢者で持病持ちだ。重篤な催奇形性が高齢者にとって何の問題なのだ。高齢者の命を何ととらえているのだ。

また、重症の患者が増えると医療が逼迫することが問題視されているのだから、本人に危険性のある副作用を提示したうえで、患者さんが望むならば投与すればいい。それで重症者が減れば、「重症者が増えて医療崩壊が起こる」という緊急事態の理由が一つなくなるのではないのか?

さらに、急激な重症化要因として「Out-of-Hospital Cardiac Arrest during the Covid-19 Outbreak in Italy」、「Large-Vessel Stroke as a Presenting Feature of Covid-19 in the Young」、「Covid-19 in Immune-Mediated Inflammatory Diseases — Case Series from New York」という3つのコメントがNew England Journal of Medicine誌に出ていた。サイトカインという免疫物質が分泌されて、大きな血管が詰まる危険性を示唆したものだ。ニューヨークでは突然死が増えており、コロナ感染に関連する可能性が指摘されている。日本でも、朝は普通だったが、奥様が夜戻ると、亡くなっていたケースも報告されている。

芸能人やスポーツ選手たちはアビガンが投与されて改善したとコメントしているではないのか?私の知人からも、アビガンが有効であったと耳にする機会も多い。すでに、日本では数千人単位で投与されているのだから、情報を速やかに集めればいい。

そして、副作用が許容できる範囲内で、本当に重症化が抑えられるならば、PCR検査で陽性者が見つかっても、重症化しないうちに手が打てるのではないのか?何のために200万人分の備蓄をしているのか、意味が分からない。たとえ、実際は、報告されている患者数の100倍の感染者がいても、十分に対応できるだけの備蓄があるのではないのか!

夕方、首相の記者会見をテレビで見ていて、いつもの違和感を覚えた。誰に何を伝えようとしているのか釈然としないのだ。その理由を確かめるために、メルケル首相やジョンソン首相の記者会見を確認した。そして、ほとんどプロンプターの原稿を読みながら話をしているので、言っていることが伝わらないのだと思った。カメラを見ずに、原稿を読んでいるだけだから、自分の言葉としてメッセージが届かないのだ。

会見は短くてもいいので、自分の言葉として、なぜ緊急事態宣言の延長が必要なのかを国民に呼びかけて欲しいものだ。PCR検査が増えない理由を専門家が答えていたが、はっきりわからないと言う。PCR検査を増やす指示が出て、もう2ヶ月以上過ぎた。専門家会議にふざけるなと言いたい。人の命を何と思っているのだ!WHOが「検査、検査、検査」とコメントを発したにもかかわらず、それを無視した責任者はいったい誰なのだ!


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年5月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。