高齢者を保護して休業要請を中止せよ

池田 信夫

もう新型コロナの感染は峠を越したといっていいだろう。5月11日現在の日本のコロナ死者は643人。これをアメリカの8万3000人、イギリスの3万3000人と比べるだけで、どこの国が成功したかは明らかだ。14日に政府は緊急事態宣言を見直す予定だが、東京都・大阪府など13の「特定警戒都道府県」以外は、原則として解除する方向らしい。

大阪府ホームページより

特定警戒都道府県であっても、緊急事態宣言の解除は知事の権限でできる。問題は何を基準にしてどう解除するかという出口戦略である。大阪府のホームページによると、その解除の条件は、大きくわけて次の三つである。

  • 感染経路不明者数:10人未満
  • 検査陽性率:7%未満
  • 病床使用率:60%未満

このうち「感染経路不明者数」は意味がない。クラスター追跡は感染の拡大を防ぐ手段なので、新規感染者数が減れば、その経路が追えるかどうかはどうでもよい。「検査陽性率」も無意味な数字である。これは無症状の人を検査して分母(検査数)を増やせばいくらでも減る。

使うとすれば実効再生産数だが、これはいま大阪府では0.31であり、この1ヶ月一貫して1未満である。重要なのは病床使用率だが、これも現状では26.6%なので解除してもいい。

次の問題は、何を解除して何を残すかである。スウェーデンのように休業要請しないで、リスクの高い高齢者や重症者を隔離することが合理的だ。その効果を検証しているのが、アセモグルなどの論文である。

ここでは国民を老年・中年・若年の3グループにわけ、老年グループだけを保護して他は自由にするターゲット政策を提案している。それによると死亡率の高い老人だけを保護すると、感染率は上がるが死亡率は下がる。

この図は彼らのシミュレーションで、ロックダウンで死亡率を減らすと経済的な割引現在価値(PDV)の損失が増えるトレードオフを示したものだ。赤はすべての人を外出禁止した場合、青はターゲット政策で老人だけを保護した場合である。老人を隔離したほうが死者も経済的損失も少ない。

スウェーデンは北欧の他の国より死亡率が高い(100万人あたり328人)と批判を浴びているが、日本はたった5人。ヨーロッパだったら、とっくにロックダウンを全面解除している水準である。

特措法では国は緊急事態を宣言するだけで、自粛の中身は知事が決める。東京都も数値目標による出口戦略を明らかにすべきだ。特に飲食店などに壊滅的な打撃を与えている休業要請をやめることは緊急に必要である。そのために高齢者を分離し、自粛を「ターゲット化」することも考えていいのではないか。

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