新型コロナ時代のスーパーマンは誰

Dayna/flickr(編集部)

当方はジェリー・シーゲル原作の「スーパーマン」(Superman)が大好きだった。小さい時、「空を見ろ、鳥だ、飛行機だ、いや、スーパーマンだ」というセリフを口ずさみながら野原を駆け巡ったものだ。

このコラム欄でも「スーパーマンの原作者はユダヤ人」(2020年1月27日)で原作者のことを少し紹介したが、その直後、中国発「新型コロナウイルス」が世界を席巻し、欧州では多くの犠牲者が出、連日、新型コロナ関連のニュースで溢れ出した。あれから3か月以上が経過した。当方は、またスーパーマンのことを考え出した。

新型コロナ時代にスーパーマンが到来したらどうだろうか。なぜならば、新型コロナは「第2次世界大戦後、人類が直面している最大の挑戦」といわれている。スーパーマンが活躍できる舞台は整っている。人々の間に新たなスーパーマンの到来を期待する声すら聞かれる。その意味で、スーパーマン再来の時は熟してきた。

…と、ここまで考えてきて突然、「新型コロナ時代のスーパーマンは惑星クリンプトンから地球に飛来しなくてもいいのではないか」「ひょっとしたら、地球生まれのスーパーマンが出てくる時ではないか」という思いが浮かび上がってきたのだ。

新型コロナウイルスは「武漢ウイルス研究所」から外部に流出し、そのウイルスは人から人へ感染していく伝染病だ。とすれば、スーパーマンではなくても、治療薬、ワクチンが出てくれば、治癒できる。ウイルス専門家の話では、1年から1年半でワクチンも可能だという。すなわち、中国発新型コロナの場合、スーパーマンは本来、必要ではないというのだ。

しかし、治療薬、ワクチンが完成するまでまだ時間がかかる。その間、新型コロナに感染した人々を救うためにスーパーマンが出てきてもおかしくないはずだ、といった「スーパーマン待望論」が出てきているのだ。

新型コロナの場合、回復した元患者には新型コロナ感染に対して「抗体」が体内にできるから、元患者こそ新型コロナ退治を担うスーパーマンだといえる。新型コロナに罹り、体内に抗体ができた人は再発しないから、新型コロナを恐れる必要はない。すなわち、スーパーマンになれる条件を満たしているわけだ。

初代スーパーマンが世に出た1938年は、ヒトラーがナチス・ドイツ軍を率い台頭してきた時だ。2代目のスーパーマンは新型コロナの大感染時の2020年に生まれてくる。それもスーパーマンはもはや1人ではないのだ。

日本の厚生労働省によると、日本の感染者数は16日現在、1万6237人で、回復者は1万0809人だ。アルプスの小国オーストリアでもほぼ同じく、約1万4000人以上が回復している。回復者の数は毎日、死者数を大きく上回る速さで増え続けている。新生児を迎えるように、新たなスーパーマンが連日、誕生していると考えれば、これこそ人類の希望というべきだろう。

ただし、新たなスーパーマンにも問題はある。中国からの情報では、回復した患者が検査で再び陽性になるケースが増えているというのだ。通常、ウイルスに感染すると、体内に抗体が作られるから、同じウイルスに再び感染することはないことになっていたが、中国湖北省武漢発の新型コロナウイルスの場合、少々異なっている。ウイルス専門家の中には「いったん回復してもウイルスが再び増殖する『持続感染』が考えられる」と主張する声が聞かれるほどだ(「新型肺炎患者の『再発』問題」2020年3月2日参考)。

また、欧米のウイルス専門家の話によると、「回復者には抗体が生まれているが、それがいつまで有効かは不明だ」というのだ。新型コロナ時代のスーパーマンは残念ながら惑星クリンプトン生まれのように無敵ではなく、感染力の強い新型コロナの逆襲にあって敗走せざるを得なくなることも考えられるのだ。無敵ではないスーパーマンはもはやスーパーマンと呼べなくなる。

「初代は権威があり、品格もあって良かったが、2代目は……」といった歌舞伎の世界や落語の世界で聞くような嘆きがスーパーマンの場合も飛び出してくるわけだ。

新型コロナの場合の「抗体」について、詳細な研究が必要だろう。生まれて半年足らずのウイルスの全ての性質、傾向を掌握することは、新生児の性格、気質を短期間で理解できないように、時間が必要だからだ。

ナチス・ドイツ軍が台頭した1938年生まれの「スーパーマン」は異星生まれで、1人だったが、新型コロナ時代の場合、世界のグロバリゼーションの影響もあって、地球生まれの無数のスーパーマンが誕生する可能性がある。ひょっとしたら、彼らは初代スーパーマンのように無敵ではないかもしれないが、成長することで強くなり、「地上の星」となって苦境にある人々を照らす希望となれるのではないか(「コロナ危機に取り組む『地上の星』たち」2020年4月4日参考)。

最後に、マーティン・ルーサー・キング牧師の名言に倣って言えば、当方には「夢」がある。当方の体に新型コロナに負けない「抗体」が生まれ、感染を恐れることなく、困窮下にある人々に手を差し伸ばすことができることだ。少し年を取ったが、スーパーマンになることだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年5月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。