バチカン「68日間」の封鎖解除

バチカンニュース独語版によると、ローマ・カトリック教会総本山、バチカンは18日、ロックダウンしてきたサンピエトロ大聖堂、サンピエトロ広場を信者のために再びオープンした。

68日ぶりにオープンされるバチカンのサンピエトロ大聖堂(バチカンニュース2020年5月17日から)

バチカンは3月10日以来、中国武漢発の新型コロナウイルス感染防止のためにサンピエトロ大聖堂、サンピエトロ広場を68日間、閉鎖してきた。キリスト教会の最大の宗教行事の一つ、4月12日の復活祭(イースター)は信者なしで挙行された。

バチカンでは毎年、サンピエトロ広場に信者を迎えて記念礼拝が行われ、ローマ教皇が世界に向かって「ウルビ・エト・オルビ」の祝福を発する。今年はローマ教皇がサンピエトロ大聖堂内で儀典長グイド・マリーニ神父や数人の枢機卿、司教だけが参加した中で行った。もちろん、初めてのことだった。フランシスコ教皇は当時、信者たちがいない広場の不気味な静けさに大きな衝撃を受けたと述懐している。

封鎖解除最初の日曜礼拝が17日、世界各地の教会で行われた。カトリック教国オーストリアの教会でも開かれたが、その様子を夜のニュース番組が報じていた。信者たちはマスクを着用し、手を消毒してから教会内に入る。相手との距離を取るために席と席の間は一つずつ空けられていた。聖体拝領では多くの信者は聖体のパンを手に受け取り、横にいってマスクを開けて口に入れていた。教会合唱隊は距離(ソーシャルディスタンス)を取るため小規模編成で聖歌や讃美歌を合唱していた。

礼拝に参加した信者の一人は、「この期間、インターネットで礼拝をフォローしてきたが、教会で礼拝を受けるのはやはり格別だ」と喜びを率直に表していた。多くの信者にとって、教会は365日間、信者のために常に開かれ、日曜礼拝も気が向けばいつでも参加できるものと考えられてきたが、それが突然、閉鎖され、聖水は片づけられ、教会建物に入ることもできない、といった状況が出現し、大きなショックを受けてきたはずだ。

改築や修復以外で教会が閉鎖されるという事態は通常、欧州人には考えられない。ショッピングモールやサッカー場が閉まるのとは違う。持病持ちの人が、新型コロナ感染のために病院の通常診察の窓口が閉鎖され、診察を受けることが出来なくなったため、どこへ行けばいいのかと戸惑っているような状況を思い出してほしい。それに少し似ているかもしれない。

欧州のキリスト教社会は世俗化され、教会が社会で占めるウエイトはなくなったことは事実だ。聖職者の未成年者への性的虐待事件が多発する教会にはもはや自浄力はなくなった。しかし、教会が突然閉鎖されるという事態は信者にもそうでない人々にとっても初めての経験だ。

キリスト教会を含む宗教界では、重要な儀式やイベントは「教会」、「寺院」、「シナゴーク」(会堂)など宗教施設内で信者たちを集めて挙行されてきた。宗教団体が過去、華やかで豪華な教会や寺院を建設するのは信者たちに見せるために必要だからだ。

しかし、今年に入り、事情が激変した。新型コロナの感染拡大を受け、外出禁止、ソーシャルコンタクトの縮小など要請されてきたため、集会開催は基本的には禁止された。そこでビデオ集会、テレビ礼拝の開催となってきたわけだ。

同時に、「教会が閉鎖される」という事態はこれまで考えられなかったことだけに、その異常な状況は新たに出発するチャンスを教会側と信者たちに提供してくれるかもしれない(「新型コロナが進める『宗教改革』」2020年4月23日参考)。

今月21日は復活イエスが40日後、昇天された日を祝う「キリスト昇天日」だ。イエスは十字架上で死んで3日後、弟子たちの前に復活し、彼らにみ言葉を語り、40日後に昇天した。40日間の間、イエスは様々な奇跡を見せ、意気消沈していた弟子たちを鼓舞し、イエスの福音を世界に伝えるように導いた。

そして5月31日には聖霊降臨節(ペンテコステ)を迎える。イエスの復活から始まったキリスト教は、世界宗教へ発展していく。イエスを3度否認したペテロがその後、逆さ十字架さえも恐れない強い信仰者に生まれかわっていく。ペンテコステ(五旬節)は「教会が誕生した日」と受け取られている。

果たして、教会が再び多くの信者が集う場所となるだろうか。それともクリスマスとイースター以外は観光客が集まる場所に過ぎず、礼拝参加者も少ないといった新型コロナ感染前の様子を再現するだろうか。

68日ぶりに開かれた教会が初代キリスト教会のように、人々の心に希望と霊性を与える神の館に生まれかわるか、ここしばらくバチカンと信者たちの動向に注視していきたい。人は通常ではない出来事に遭遇した場合、「その後」は「その前」とは変わるものだ。キリスト教会も同じではないだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年5月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。