実体経済と株式市場の乖離は致し方ないことだ

新型コロナショックの経済に与える衝撃の大きさが数字となって次々に我々に突き付けられている。

先週発表されたアメリカの新規失業保険申請者数は212万3千件となり、700万件に迫った3月下旬のピークに比べて減少傾向にあるものの依然として200万件超えが続いており、過去10週間の申請件数は4000万件を超えた。

またアメリカの1~3月期のGDPは前期比年率マイナス5.0%と2008年のリーマンショック以来最大の落ち込みとなった。さらにGDPに大きなウェイトを占める個人消費は、4月は前月比マイナス13.6%と過去最大の落ち込みとなった。

日本でも1~3月期のGDPは、年率換算でマイナス3.4%となり、次の4~6月期は大方の予想では年率で20%以上のマイナスが見込まれている。

ニューヨーク証券取引所(Silveira Neto/Flickr)

このように実体経済の悪化が進む中で、世界の株価は3月の急落の後速いテンポで回復基調にある。ニューヨーク市場のダウ平均は、新型コロナの影響で3月23日には1万8591.93ドルと2月12日のピークの2万9881.42ドルから1万ドル以上値を下げたが、3日後の3月26日には2万2千ドルを回復し、その後急激に戻して4月8日には2万3千ドル台に、4月17日には2万4千ドル台、そして5月27日にはついに2万5548.27ドルを付けた。

日本でも日経平均株価は3月19日の1万6552.83円を底に概ね右肩上がりの回復をして、6月2日終値は2万2325.61円となっている。

こうした実体経済と株価の動きの乖離の理由は、主要国中央銀行が新型コロナ対策のために大量に供給したマネーが株式市場などにも流れ込んでいるためだということは、市場関係者をはじめ、経済学者、評論家など多くの人が広く認めるところだ。

マネタリーベースは中央銀行が世の中に直接的に供給するお金の量のことを指すが、FRBのマネタリーベースは今年4月には4兆8449億ドルと昨年4月(3兆2866億ドル)より1兆5583億ドル増えている。

日本も日銀の黒田総裁が新型コロナ対策のため、できることは何でもやるという姿勢で臨んでいることからアメリカほど急激ではないがマネタリーベースは拡大していて、今年4月末には529兆1539億円と1年前より150兆円近く増加している。

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新型コロナウィルスの感染拡大の実体経済への影響をできるだけ押さえようと各国中央銀行が様々な手段で必死に対応しようとした結果のマネタリーベースの拡大なので、このこと自体やむを得ないことだと思うが、超金融緩和の中で、株式市場などでマネーゲーム狂奔するヘッジファンドや投資家を見て心穏やかでない人も多かろう。

新型コロナで失業したり、経営が破綻した人々からすれば、マネーゲームに狂奔する人々の道徳心を問いたくなる気持ちはわかるが、資本主義経済は清廉潔白であれば上手く回っていくというものでもない。

私は最近の株式市場の様子を眺めて、高校生の時に漢文の授業で習った楚辞の漁父辞を思い起こした。

ご存じの方も多いと思うが、私流に訳してその一部をご紹介すると、清廉潔白過ぎて楚の宮廷を追われた屈原は、滄浪という川のほとりで一人の漁父と出会う。漁父は屈原に、沢山の人々が酔っているならば、なぜあなたは酒粕を食らい薄い酒を飲まないのかと言って、世の中の流れとともに生きることを勧めるが、屈原はこれを潔しとしない。漁父は「滄浪の水が澄んでいれば自分の冠のひもを洗えばよい。滄浪の水が濁れば自分の足を洗えばよい。」といい残して去って、二人は二度と会わなかった。

私は、自分から今のマネーゲームに飛び込んでいくつもりはない。しかし声高にギャンブル資本主義はけしからんと言うこともせず、静かに成行を見守るだけにしようと思っている。

いくらFRBや日銀の政策が株価を押し上げても、いずれ実体経済の重みがそれをつぶしてしまうことは避けられない。いつかは分からないが真実の時(モーメント・オブ・トゥルース)は必ずやって来て、マネーゲームは終わりを迎えると思っている。