6月11日付けの朝雲新聞によると、陸自の部隊訓練評価隊が3月11日に初めて鉄条網蹂躙の試験「戦車による鉄条網の蹂躙検証」を実施したそうです。びっくりです。
機甲科の教本である「装軌車操縦」には「鉄条網の通過要項」という項目があるのですが、
過去の陸自の装備開発では「戦車による鉄条網の蹂躙検証」に関わる実験の検証データは残されていない
つまり実際に検証したことがなかったのに教本に載っているとのことです。また、実際の訓練もやってこなかったわけです。実験に際しては「わざわざ装備を壊すようなことをするのか」という意見もあったそうです。
実際に試験では問題も起きず、多くの教訓が得られたそうです。結果、今後の部隊対抗戦で「戦車による鉄条網の蹂躙」を実行動に加えられるように「訓練実施規定」を改定するとのことです。
このような検証を実行したことは評価しますが、21世紀になるまでこんな初歩的なことを実際にやったことがなかったというのは驚きです。つまり戦車の開発でも「できるはずだ」として、こういう検証をやっていなかった、ということです。
装輪装甲車に水陸両用機能が必要ないというのもコマツの技術者の「日本の川は急流が多いから」という意見をそのまま検証もしないまま採用しました。いつも自衛隊装備開発において基礎的な試験が少ないことは問題だと申し上げておりますが、ここまでひどいとは思いませんでした。
こういう体質で戦車のみならず、その他の装備も含めてまともな開発できるか、疑いたくなるのが普通の人の感覚でしょう。
こういうことが放置される原因の一つは自衛隊の過度の秘密主義と記者クラブによる取材機会の囲い込みで、専門メディアもまともな事実把握ができないので、納税者が問題をしり得ないということがあるかと思います。
ヤフコメあたりで国産戦車大絶賛する、オツムの緩い軍オタさんたちはこういう事実を見せられても変わらず大絶賛をするんでしょう。アイドルオタクがアイドル語るのと同じメンタリティで国防を語るのは大変に危険です。根拠なき、あるいは情緒に基づく礼賛はカルト宗教と同じです。
■本日の市ヶ谷の噂■
海自の「ヘリ空母」いずも級は基準排水量19,500トンだが、当初の計画では24,000トンで、より使い勝手がいい艦になるずはずだった。だが世論を刺激しないための政治的な配慮のため排水量を削減したので、あちこちにしわ寄せがいったとの噂。
Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。
European Security & Defence に以下の記事を寄稿しました。
Hitachi wins Japanese bulldozer contract
東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2020年6月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。