PCR検査の闇雲な拡大に関してこれまで何度か反論してきましたが、そのニーズはいまだ衰えることがなく、事件にまで発展することがあるようです。
PCR検査断られ「やれや。どうなっても知らんぞ」 医師に強要未遂疑い、建設業男逮捕https://t.co/epxxOELd1v
— EARLのコロナツイート (@EARL_COVID19_tw) June 11, 2020
本件に関して、不要なPCR検査について毅然とした態度を示した医師に、敬意を表します。
さて、全国民に毎月PCR検査をするなどといった極論はさすがにトーンダウンしてきたようです。しかしその一方で地方自治体やスポーツ等イベント関係者の間で大規模な調査の話が持ち上がりつつあります。
また、外出自粛が解除される中で、普段より長く休暇をとる従業員に対して、根拠としてPCR検査を求めたいというニーズも出てきているようです。
そこで本稿では「安心・安全」のためにPCR検査を受けたいというニーズを、規制緩和と市場原理に基づいて解決する方法を論考します。
国がやるならば明確な根拠が必要
これまで実施されてきた「医師が必要と判断したもの」に関するPCR検査は、「隔離するか隔離しないかの判断」という院内感染防止の目的で妥当性がありました。
一方で、いま市中に溢れるPCR検査待望論は、「安心していままで通りの社会活動に戻りたい」などといった、ゼロリスクを求める定義不可能な「安心」を求めています。
残念ながらPCR検査によって安心は買えません。
このように効果が明確ではなく、却って誤解とリスクを招く検査の大規模実施に税金を投入することに合理性はありません。
既に二次補正予算として約32兆円の支出が決定し、全額を国債発行で贖うことが決まっています。
(参考)一律10万円の給付を検証してみる − 千正康裕
(拙稿)ダブル復興課税?コロナ対策、請求書は忘れた頃にやってくる
これは東日本大震災の4倍を超える支出が予定されていることになり、復興課税に換算して20年払いで8%、年間の消費税に換算して15%に相当します。
国家予算の合理的な使い道は常日頃から国民一人一人が意識すべきですが、現状はよりいっそうそれがもとめられているのではないでしょうか。
自費診療としてPCR検査を市場に委ねる
以上のように無制限にPCR検査を行う妥当性はなく、財源を国庫に求めるのはさらに厳しい状況です。
ではPCR検査を渇望している人たちは、我慢するしかないのでしょうか。そんなことはありません。自費診療としてPCR検査を実施すれば、むしろ経済を活性化させる効果すらあります。
既にいくつかの医療機関で自費診療としてPCR検査を実施しており、価格は2~5万円が相場のようです。PCR検査を受けたくて医師を恫喝し逮捕されるくらいなら、数万円の検査費用は喜んで払うのではないでしょうか。
PCR検査の積極的な自費解禁により検査件数が増える見込みであれば、業者は検査体制を拡大し、価格が下がる可能性もあります。これは万が一第二波があった場合にも、有用なインフラとなります。
医療機関は広告に関して厳しい制限がかけられていますが、暫定的にPCR自費検査の広告解禁などを行えば、どこで検査を受ければよいか分からない等と言った不安も解消します。PCR検査を行わない医療機関に対する問い合わせも減ると思うので、医療リソースの適正利用に寄与します。
行政がすべきは病床数不足対策
一回数万円というのは気軽に払える額ではないので、検査件数が急激に拡大するリスクも低いでしょう。孫正義氏が私費投入による大規模PCR検査を企画した時点と違い、現時点ではある程度病床数も余裕ができてきています。今後も短期間での大規模調査は弊害が大きいと考えられますが、自費PCR検査の規制緩和は緩徐な検査数増加となるので、病床数圧迫のリスクは少なそうです。
一方で今後の第二波を想定した対策を考えたとき、前回ギリギリで切り抜けた病床数に医療体制の弱点があるといえるのではないでしょうか。
既に病床数圧迫の大きな原因だった、退院基準の緩和は達成されました。もうひとつ、軽症患者の待機施設移送をより柔軟に実行できるようにすれば、第二波対策として盤石だと思います。
PCR検査体制の議論よりも、スムーズな待機施設借り上げの仕組みづくりなどを急いでほしいと考えています。
(参考)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における新型コロナ ウイルス感染症患者の退院及び就業制限の取扱いについて ー 厚生労働省
まとめ
冒頭、長期欠勤の根拠としてPCR検査による診断を受けてほしいというニーズがあると書きました。原則的には体調不良の場合は診断書不要で欠勤が望ましいと思いますが、企業体力も失われている現状に限り、経営者側の言い分もあるのではないかと感じます。
ここまで論じてきた通り、ある程度高額であってもPCR検査をする手段があるならば、会社側から従業員に診断書を求めることもできます。その費用は会社負担となる場合が多いと認識しています。
一方で大規模イベントで検査をする場合は、PCR検査自体があまり合理的とはいえません。検査から結果がでるまで数日かかるので、検査日から結果が判明する日まで隔離しないと、感染していない証明としては成り立ちません。
成り立たないものに予算をかけても仕方がないので、個人的な意見としては非接触型の体温計で入場者の検温を行うといった形で対応するしかないのではと考えています。
このように国が「安心・安全」といった曖昧な部分に関して予算をつけると、コストを歪ませ、意味を成さない検査が拡大し、出口戦略を見失います。
「医師が必要と判断した」ものに関しては従来通りとし、「安心・安全」の部分に関しては思い切って民間市場に任せたほうが、設備投資、価格調整も自律的に行われ、社会的に必要十分な普及となるのではないかと考えております。