eスポーツ検討会、報告書がまとまりました。

経産省+日本eスポーツ連合JeSU「eスポーツ活性化検討会」。
座長を務めた5回にわたる会議を終え、報告をまとめました。
eスポーツに関する政府系の報告は世界でも初かもしれません。
市場規模の展望と発展に向けたアクションをまとめます。

委員には、プロのeスポーツ選手やチーム代表、イベント主催者、ゲーム業界代表らの当事者、IT企業やテレビ局、投資・調査といった産業界に加え、法律、医療、健康、自治体などからも横断的に参加いただきました。
スリリングな意見の応酬でしたが、eスポーツの健全な発展という点で一致した有識者チームの声はいずれも建設的でした。

霞が関からは、呼びかけ役の経産省のほか、内閣府知財本部、総務省、消費者庁、文科省スポーツ庁も参加しました。
産業戦略であるだけでなく、知財戦略、通信政策、地方政策、消費者政策、教育・スポーツ政策でもある。
政府も正しく認識をしてくれています。
この官民の座組ができたことがまず第一の成果です。

報告の内容です。
eスポーツの市場規模。
直接市場は2018年44億円を5年後の2025年に700億円、16倍にする。
飲食・物販・教育など波及市場を含めると、現在の340億円を2025年に3000億円に成長させる。
大きな目標を立てました。

日本はゲーム市場に占めるeスポーツファンの比率が8%。
これを韓国並み47%まで高めることが戦略です。
プロ野球並みのファン数、2500万人ぐらいにしよう、ということです。

これに向け、
1)ゲームとしての魅力向上
2)イベントとしての魅力向上
3)選手の経済的地位向上
4)ファンのコア化
5)法制度/ルール対応のハードル引き下げ
といった産官に向けた提言を発出します。

合わせて、社会的な意義も検討しました。
1)人生を楽しく健康で生き生きとしたものとする
2)共生社会や健康長寿社会の実現、経済・地域の活性化
3)「多様性を尊重する世界」「持続可能で逆境に強い世界」「クリーンでフェアな世界」の実現
という整理をSDGsに関連づけて行いました。

そのうえで継続検討が必要な事項として、
1) ゲームIPの利用・許諾に関するガイドラインを作る
2) 各地に拠点を整備する
3) 教育面での意義やデータを整える
といった産官学にまたがる事項を掲げました。

1)のガイドラインは、大会を開催しやすくして市場を成長させる手段で、主に産業界の対応。
2)の拠点整備は自治体など行政の支援も期待するもの。
3)の教育対応は学の出番。
産官学のアクションが必要です。

ぼくが特に着目するのは教育です。
ゲームに対するネガティブな反応も残るところ、eスポーツが教育現場に広がることが発展の基盤となります。
デジタル教育の普及やプログラミングの必修化が進む中、初等中等教育からの正しい理解と取組が欠かせません。

10年前に当時の首相が、子どもがケータイを持つのは「百害あって一利なし」と発言し、それが日本のデジタル教育をどれだけ邪魔したことか。
今もある県議会がゲーム規制の条例を議論しています。
危機感をもってポジティブなメッセージを発したい。

報告では「思考力や判断力、表現力等の養成に役立つ事が期待される」「スポーツの持つ競技性やゲーミフィケーションの要素は、主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)のカタリストとしての役割が期待できる」等と記載しています。
これらを実証する研究もまた学に求められます。

その上で「こうした取組を進めるためには、各学校や大学・専門学校等の教育関係者、教育分野に係る研究者、教育委員会を含めた関係行政機関など様々な者との連携協力を土台に、一丸となった活動を今後展開していく必要がある。」と整理しました。

これを受け、ぼくもさっそくアクションに向かいたい。
JeSUや政府と連携しつつ、超教育協会やiUをベースに、教育研究のコミュニティを作ろう。
大学、専門学校、高専、高校、小中学校。eスポーツに関心のある学校の連絡体。
工学、メディア、スポーツ学、法学、経済学、教育学など研究者の集まり。

ゲーム大国でありながら、eスポーツ後進国だった日本。
産官学の意思を前に転がすことで、先進国に躍り出ることができるはず。
ここからはじまる、予感がしております。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2020年6月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。