予約困難の寿司店は、なぜどこも「お任せ」なのか?

30年来の友人と下丸子の寿司店にお邪魔しました。こちらのお店は以前、SHINOBY’S BAR 銀座での「お寿司イベント」をお願いしていた、久兵衛出身の大将が握るお寿司屋さんです。

以前は、のんびりとした美味しいお寿司屋さんだったのですが、ここ数年は平日は17時半と20時半の2回転、休日はランチも入れて3回転の「完全入替え制」に変わりました。また、お好みでの注文は無くなり、決められたお料理が順番に出てくる「お任せ」だけ。そして、今や予約困難店になってしまいました。

カウンターだけの7席ですが、この日も満席。全員が同じネタを順番に食べていきます。お寿司だけではなく、焼き物や煮物、あん肝のキャラメリーゼといった創作料理まで出てきます。前半はおつまみで、後半からは本格的な握りになり、最後のデザートまでボリュームたっぷり。シャリ(ご飯)小さめでお願いしましたが、それでもお腹一杯でした。

これだけ飲んで食べても、一人1万円前後というのは、立地を考えてもかなり破格です。

以前のお好みで食べられる寿司店から、お任せで予約だけの寿司店に変わることで、同じ価格でも食材のレベルを一気に上げることが可能になりました。

予約をきっちり満席になるように入れて、お好みではなく「お任せ」だけにメニュを絞り込むスタイルは、好きなネタを好きなだけ食べたい人にとっては、物足りないかもしれません。

しかし、食材の廃棄ロスがありませんから、リスクを取って、躊躇なく良い食材を仕入れることができます。実際、こちらのお店の原価率(食材のコスト)は50%を超えているようです。これは通常の飲食店の2倍です。

このような営業スタイルは、リピーターの期待を裏切らないように「価値>価格」を続けないと、次の予約が入らなくなります。毎回が真剣勝負です。

人気の寿司店のほとんどが、「お任せだけの完全入替制」でお寿司を提供するようになっているのには理由があります。

顧客は、好きなものを食べられることよりも、決まったものでも良いから本当に美味しいものをリーズナブルな価格で味わいたいと思っているのです。

自分が知らない新しいネタや、調理法を教えてもらいながら、緩急のメリハリが付いたお料理を3時間かけて堪能する。これがお寿司を食べる醍醐味です。

寿司店は、職人の腕だけではなく、原価率をどこまで高くできるかという激しいコスト競争をしています。だから、食材のロスを減らす営業形態の方が顧客に支持される。これは、考えてみれば当たり前のことなのです。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2020年6月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。