米国版“ミセス・ワタナベ”、ウォール街を驚かせる個人投資家②

(カバー写真:Mizzou CAFNR/Flickr)

個人投資家の存在を一躍スターダムに押し上げたのは、スマートフォン投資アプリのロビンフッドでしょう。

ロビンフッドは、当時20代後半だったインド系米国人のバイジュ・バット氏と、ブルガリア系の米国人のウラジミール・テネフ氏の2人が2013年に創業しました。スタンフォード大学の寮で、ルームメイトだった2人は「全ての人に金融の民主化を(Democratize Finance For All)」というスローガンを掲げ、2011年9月に起こった“ウォール街を占拠せよ!”に触発されて会社を興したわけです。サンダース支持者のミレニアル世代が共鳴したのは、想像に難くありません。そもそもロビンフッド自体、悪代官を懲らしめ貧民を助ける義賊ですものね、

チャート:ロビンフッドの収益源と、取り扱い商品は以下の通り。

作成:My Big Apple NY

株式市場を通じた富の再分配を目指し、設立当初か取引手数料を無料とした結果、当初からミレニアル世代を引き付け、利用者の平均年齢は31歳でそのうち約半分が株式投資で初心者レベルとされています。 口コミを通じ口座数は増加をたどり、2016年には200万件だった口座数は2019年末に1,000万件の大台に乗せ、リテール証券大手チャールズ・シュワブの約1,200万件と比肩するほどに成長しました。

チャート:各ネット証券の口座数

(作成:My Big Apple NY)

これは、米国でも画期的な流れと言えるでしょう。米国における個人の株式保有率は2016年時点で投信や年金など間接を含め51.9%。ただし、年齢別でみるとミレニアル世代を含む35歳以下が41%に過ぎず、45~65歳は57%台と大きく水を開けられていました。

チャート:米国での年齢別、株式保有動向

(作成:My Big Apple NY)

また、所得層別でも上位10%での株式保有率が94.7%に対し、中低所得者層では32.5%程度であり、株式投資の中心は①シニア世代、②中高所得者層―だったことが分かります。そこに風穴を開け、若い世代に株式投資で資産運用の場を与えたのがロビンフッドです。

チャート:米国での所得別、株式保有動向

(作成:My Big Apple NY)

そのロビンフッド投資家が、足元で米株上昇相場の牽引役として注目を集めています。 例えばソシエテ・ジェネラルは、ラッセル2000の底打ちとロビンフッド投資家の買い持ちポジションの増加が正比例していると指摘、その手法を「非の打ちどころがない(impeccable)」と評価しました。

また、5月22日に破産申請したレンタカー大手ハーツ株へ資金を投じた結果、6月に入り同社株は一時5ドル台へ浮上、その裏でハーツの株式を全て売却した著名投資家カール・アイカーン氏は16億ドルの損失を計上したというではありませんか。ロビンフッド投資家がウォール街に勝利した瞬間ですよね。景気刺激策の小切手も、有用だったに違いありません。

チャート:ハーツの株価推移

(作成:My Big Apple NY)

ただし、光があれば影ができる通り問題も潜みます。例えば、6月初めに中国不動産関連の米国預託証券(ADR)であるFangdd Network Groupの株価が出来高を伴って急騰、一時安値から約680%高をつけた後、急落しました。これはFANG銘柄、つまり日本でGAFAとして知られるテクノロジー大手関連銘柄と間違われたためとの説が有力です。

また、前述の破綻銘柄ハーツと言えば個人投資家の買いに乗じ破産申請後に新株発行を目指し連邦破産裁判所がこれを承認したものの、証券取引委員会(SEC)が待ったをかけ、新株発行は結局見送られました。個人投資家が株式市場を盛り上げる裏側で、無秩序な動きには規制当局が乗り出す例として、投資の歴史に刻み付けられたことでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2020年6月24日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。