金融庁のいう顧客本位のもとでは、例えば、投資信託の販売に関して、金融機関は、顧客の「資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズ」を把握していることが前提だとされる。しかし、金融機関が正面から質問しても、正しい答えが得られるとは考えられない。そこで、ロボットが利用される。「資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズ」を顧客自身が入力することで、最適な投資信託の組合せを提案するロボットである。
ここには、二つの論点がある。第一は、顧客は、金融機関の人に対面で聞かれても答えないのに、ロボットには答えると仮定されていることである。つまり、顧客は、必ずしも自分の利益にならない営業を仕掛けてくると思うので、金融機関の人には情報を提供しないのに対し、ロボットは口もきかないし、手も出さないので、安心すると想定されているわけである。現実的で的確な想定だが、人のほうをロボットよりも信頼されるようにするほうが重要であろう。
第二の論点は、ロボットは顧客本位になり得ても、その顧客は真の顧客とは異なるということである。ロボットが把握している顧客は、生きた顧客ではなくて、数値化された属性にすぎないのである。このことを忘れれば、ロボットは、適合性を保証することで金融機関を安全圏に置くだけの装置、経費を削減するためだけの装置と化すであろう。
そもそも、投資信託の販売は家計と無関係になされてはならないのだから、顧客情報としては、金融的側面に関する情報よりも、生きた家計に関する情報のほうが重要である。ところが、家計の活動は膨大な情報の集積になるから、テクノロジーを使うほかない。要は、いわゆるビッグデータを用いたロボットの高度化が必要なのである。
しかし、いかにテクノロジーが進化しても、商業の基本は生身の人と人との関係である。金融機関の人間は、人間である顧客との間で、生きた経済活動の話ができなくてはならない。そうした対話のなかから、「資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズ」が自然と知られてくる、そのような関係性の構築が真の顧客本位なのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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