Nature Medicineの6月号に「BL-8040, a CXCR4 antagonist, in combination with pembrolizumab and chemotherapy for pancreatic cancer: the COMBAT trial」というタイトルの論文が掲載されている。
すい臓がんに対する免疫チェックポイント抗体+化学療法に、CXCR4(ケモカインという免疫関連物質の受容体)阻害剤を組み合わせた臨床試験(COMBAT試験)の結果を報告したものだ。
病勢コントロール率(Disease Control Rate=DCR)は 34.5%(29人で腫瘍が縮小した患者は一人、増悪しなかった患者が9人)だった。生存期間の中央値は3.3ヶ月とあまりパッとしない結果だ。
ただし、この臨床試験の治療をセカンドラインとして受けた患者に限ると生存期間中央値は7.5ヶ月とあった。抗がん剤をやり尽くして免疫能をガタガタにしてから免疫療法をしても効果は上がるはずもないのは当然だ。
注目すべき点は新しいCXCR4阻害剤が、腫瘍内へのがん細胞を殺す可能性のあるCD8細胞の浸潤を増やし、免疫を抑える骨髄由来抑制細胞(myeloid-derived suppressor cells=MDSCs) の数を減らしたことである。そして、全身を循環する免疫抑制細胞も減少した。
そして、NOPOLI-1化学療法(リポソーム化したイリノテカンとフルオロウラシル、ロイコボリン)に免疫チェックポイント抗体+CXCR4阻害剤を加えた治療を受けた 22人の群では、腫瘍縮小率が32%、病勢コントロール率が77%、有効期間が7.8ヶ月であった。免疫機能に対する影響を低く抑えた抗がん剤療法と述べられていたが、免疫に重要な骨髄細胞を殺す抗がん剤治療との組み合わせよりは好ましいはずだ。
もちろん、患者数を増やした試験は必要だが、3か月を超えてから腫瘍縮小を示した患者さんが4人いたことはCD8細胞の浸潤が増えていたことと併せて興味深い。すい臓がんでは、城壁が存在しているかの如く、リンパ球ががん組織を取り囲むだけで中には入っていかないことがある。CXCR4阻害剤がその点を改善できるなら、理に適う。
いろいろな難治がんが、まだまだ、難攻不落の城のようではあるが、敵の強さ弱さを見つけだして、強いポイントを攻撃し、弱さをトコトン突いていくしか、この難敵に勝つ方法はない。
それにしても、日本に戻り、2年経ったが日本の文化は何も変わっていない。日本の研究者は自分の論文にしか目がいかないようだ。
コロナ対策も、がん対策も敵は思わぬところにいる。まず、味方同士でつぶし合いを始める。プラスがいくつあっても、その分だけマイナスがあり、結果はゼロどころか、マイナスになる。いや、掛け算だと、一人ゼロがいると、何が起こってもゼロのままだ。
利権ではなく、国益、患者利益を考えて対処して欲しいものだ。マイナスやゼロの人が幅を利かせていると、日本は終わってしまう。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年6月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください