朝日新聞がまた自民党の広報マンガを批判しています。今度は人間行動進化学会が反対声明を出したというのですが、この記事ではこんな子供向けの一問一答がついています。
Q キリンは高い木の葉を食べられるように進化した、というのは正しい?
A 「○○のために進化した」という表現も誤りだ。生物の進化は、生物が何かを意図して行うものではない。世代を重ねる中で結果として起きる現象だ。アニメのキャラが変身して強くなることや、スポーツ選手のパワーアップ、製品の性能向上なども「進化」と表現されるけど、生物の進化とは関係ない。
生物の進化に意図がないというのは正しい。キリンの首が長くなるのは突然変異ですから、親が高い木の葉を食べられるように首をのばしたとしても、それは子に遺伝しません。このように生まれてから身につく獲得形質は遺伝しないというのも例外のない事実です。
しかし人間の社会が「生物の進化とは関係ない」というのはまちがいです。いうまでもなく人間も生物だからです。進化(evolution)という言葉を突然変異に限定する理由はありません。この言葉はダーウィンはほとんど使っておらず、スペンサーが社会の進化について使い始めたものです。
製品の性能が「進化」するのは、ランダムな突然変異で性能が向上するからではありません。意図をもって多くの人が協力するからです。その中から市場で売れる製品だけが競争に生き残ります。
ただし進化と進歩を混同してはいけません。進歩した強い者が進化で生き残るとは限りません。たとえば恐竜と人間が戦ったら恐竜が勝つでしょうが、恐竜は進化で人類に敗れました。環境変化(地球の寒冷化)に適応できなかったからです。
だから進化で生き残るのは強い者ではなく変化できる者だという自民党のマンガは(ダーウィンの言葉ではありませんが)正しいのです。
もちろんここで進化するのは、DNAで表現される遺伝子ではありません。このように文化的に継承される性質をドーキンスはミーム(文化的遺伝子)と呼びました。これはもののたとえではなく、ウィルソンも指摘するように生物の普遍的なしくみです。
人間の社会でもすぐれた者が勝つとはかぎらない
これについての人間行動進化学会の反対声明は
私たちの先人たる科学者たちは、ダーウィンの進化論が誤用され、政治的に利用されることに警鐘を鳴らし、その問題を解決しようと努力してきました。しかし現代においてもなお、特定の政治的主張に権威を与えるために、進化を含む科学的知識が誤用される事例がしばしばみられます。
と書いていますが、これは「優生学」がヒトラーのユダヤ人絶滅や黒人差別に使われたことなどをさしてるんでしょう。そういう悲劇があったことは事実ですが、人間の社会も進化することは科学的な事実です。
たとえばあなたの遺伝子は中国人とほぼ同じで、見かけ上は区別がつきませんが、日本人のひとりあたりGDPは中国人の4倍です。これはあなたが中国人より遺伝的に4倍優秀だからではなく、日本の制度やインフラの効率が高いからです。
このように人間の集団も進化するので、変化に適応できない集団は生き残れません。20世紀には、多くの帝政の国が戦争に負けてほろびました。これは民主主義の国が進歩していることを意味するわけではなく、戦争に強いことを示しているだけです。
だから人間行動進化学会の先生の話は逆です。生物の進化で生き残った者が進歩した者とはかぎらないように、いま生き残っている国も進歩した国とはかぎらない。民主主義は国民を戦争に動員して勝つための制度なのです。
そこには意図がある点で動物とはちがいますが、競争で選ばれるしくみは同じです。民主主義が正しい価値観だという根拠は何もありません。これからは中国のような独裁のほうが効率的になるという人もいます。
自民党のマンガが憲法改正に当てはめているのは飛躍がありますが、どんな国が生き残るかは憲法が正しいかどうかではなく、環境変化(戦争や経済的な競争)に適応できるかどうかで決まるのです。美しい憲法第9条を守っていると、次の戦争では負けるかもしれません。