祝4冠 富岳40京

中田 宏

スパコンの性能を比較する専門家プロジェクト「TOP500」の計算速度ランキングで、日本の新型機「富岳」が世界一を達成したニュースが報じられました。「良いこと」の世界一であることには間違いありませんので、なんとなく日本国民としては嬉しい気がしますし、あちこちのニュースや新聞でも確かに大きく報じられていました。

このスーパーコンピュータ(スパコン)は理化学研究所と富士通の共同開発で、日本が世界1位を獲得したのは8年半ぶりです。8年前の2011年に世界1位を獲得したスーパーコンピュータ「京」は、1京(京は1兆の1万倍)/秒の速度で計算できる、地球上の70億人が1秒間に1回計算できたとして、1京回の計算をするのに約17日かかる計算をたった1秒で計算するスパコンでした。その後はアメリカと中国がお金をかけて争い続けてきたため、日本製はなかなかトップに慣れませんでした。旧民主党政権の事業仕分けで、蓮舫議員が「2位じゃ駄目なんでしょうか」と質問した事業がこのスーパーコンピュータの開発です。

この世界では毎年2回、世界ランキングが発表されるそうです。我々が「日ごろ使っているパソコン」と「スパコン」は、かなり違うことは想像がつきます。

我々が使っているパソコンでスパコンの違いは説明ができそうです。我々が普段使っているパソコンには、パソコンの中心的な頭脳である処理装置(CPU)が一つ入っている事は私も知っていますが、スパコンにはその装置が何万個も入っています。今回の富岳の場合は15万個のCPUが搭載されているそうです。

しかしお金をかけてCPUの数を増やせばいいという単純な話ではなくて、いわば15万人が15万個のパソコンを同時に操作し、ネットワーキングする技術やプログラムが必要になり、これらをしっかり制御できていることの勝負にもなるんだそうです。

世界がなぜ競い合うのか、単に世界選手権で争う競技ではなく、これから様々な技術開発を引き起こすから重要なんですね。企業は、スパコンを自社に導入して製品開発をしていくわけで、スパコンが汎用品になっていくでしょう。今回の富岳の開発目標は、『誰もが使いやすいスパコン』ということで、「誰もが」ということになれば「私も?」っていうふうに思いますけれど、それはともかくとして、スーパーコンピューター「富岳」は今後、売れるスパコンだそうです。

今回の富岳はすでに実用化されていて、今回の新型コロナウイルスで咳の飛沫がどのように広がっていくのかを、オフィス内や満員電車の中での拡散をシミュレーションに富岳を利用したそうです。

とにかくスパコンがあってこそ技術開発競争に参入できる。例えば自動車開発では、100キロの速度で車が衝突した時にどうなるのか、実車を使って実験を繰り返したら資金が幾らあっても足りません。また飛行機開発でも、風圧などの様々な状況にどんな素材を選択すれば効果的なのか、実際に飛行機を制作して飛ばす事は現実的ではありませんし、部品がどのように変形して、それがどのような影響をどこに与えていくのかをスパコンで早く計算ができ、何万通りものシミュレーションが可能です。

また、天気予報は地球を網の目のように区切り、その中の気温や気圧や風などを数値化して計算していきます。網の目は細かければ細かい方がいいけれども、それはその分だけ分析を繋げていかなければいけません。これもスパコンならより詳細に分析ができます。最近の天気予報は当たるなと思いますけれども、これもスパコンのおかげなんですね。

さらに、薬の開発などでも一体その薬がどのように細胞に効くのか、逆に副作用があるのかなど人体実験を繰り返していくわけにはいきません。臨床試験や治験を慎重に繰り返しながら長い時間をかけて薬が開発される、今回の新型コロナウイルスに対する治療薬も各国、そして各製薬会社が競い合っているわけですけれども、この根底にもどれだけ高性能なスパコンがあるかということになりますね。

これ以上難しい話は私にはとてもできませんけれども、要するに我々に影響があるということです。


編集部より:この記事は、前横浜市長、元衆議院議員の中田宏氏の公式ブログ 2020年6月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。