都知事選候補者の子育て支援政策を比較してみた

駒崎 弘樹

政府審議会の委員であり、保育・児童福祉事業者であり、2児の父である駒崎です。

7月5日投開票の都知事選挙について、日本経済新聞社が6月19~21日に行った電話調査結果によると、現職の小池百合子氏が大きくリードしており、元日本弁護士連合会会長の宇都宮健児氏とれいわ新選組代表の山本太郎氏らが追う展開となっています※1。

ニュースだけ見ていると「どうせ小池さんで決まりでしょ。つまんね」と思ってしまうかもしれませんが、さにあらず。

それぞれの候補の公約をしっかりと見ることで、我々はたくさんのことを学べるのです。誰が何を言っていて、何を言っていないか。

そして比べてみると、「ああ、やっぱり自分はこの問題について、重要と思っているんだ」と気づくこともできます。つまり、選挙を通じて、自分の社会への「願い」のようなものを知ることができるのです。

勝ち負けとは違う地平で、それだけでも選挙に参加する意味が出てこようというものです。

そんなわけで、上記4候補(敬称略)の子育て支援政策を比較してみました。

【小池百合子】 https://www.yuriko.or.jp/policy

小池氏の公約は、子育て支援政策について、幅広く言及はしていますが、全体的に具体性に欠けている印象。

例えば、「待機児童ゼロ」に言及したのは良いですが、具体的に「いつまでに何人定員を増やします!」といった数値目標がありません。また、待機児童問題を解決するためには、保育士の処遇改善がマストなのに、そこに言及がなかったのも残念です。

そして、前回の都知事選の公約では言及されなかった「子どもの貧困」が今回入ったのは良いですが、具体策を提示していただきたかったです。

一方で、他の3候補が触れていない、「ベビーシッターの更なる強化(病児・医療的ケア児への対応等)」、「重度心身障がい児への支援強化」や「男性の育休取得・家事育児への参加の促進」を盛り込んでいる点は非常に評価できると思います。

さらに、オンライン学習を強力に推進するために、「一人一台の学習用PC・標準的学習コンテンツの整備等」を挙げているのも注目すべき点です。コロナ禍でオンライン学習の必要性は高まっていますが、その基盤となるPCやインターネット環境がない家庭が一定数あって、当然ながら低所得になればなるほどPC保有率は下がります。コロナ第2波、第3波に備えて、全ての子どもたちが、家庭でPCを使ってオンライン学習できるよう環境整備することが重要です。

【宇都宮健児】http://utsunomiyakenji.com/policy/important01

宇都宮氏の公約は、子育て支援政策として足りない部分(例えば、保育士処遇改善やオンライン学習環境整備など)は見受けられるものの、全体的に具体策が多く提示されています。

例えば、以下のように、数値目標も含めた具体策を挙げている点は評価できます。

  • 児童相談所を、人口50万人に対し最低1ヶ所という国の規準にのっとって、現行11ヶ所から26ヶ所へ区市町村と連携しつつ大幅に増やします
  • 子育てを応援するため、産後ヘルパー派遣やファミリーサポートセンター、病児・病後児保育、一次預かり保育、ショートステイなどの拡充と利用料の減免のため市町村への補助金を増やします
  • 待機児をゼロにするために、5ヶ年間で5万人、当面2万人超の認可保育所等の定員増をはかります。

また、他の候補者にはないアイデアも示しています。例えば、「すべての小中学校で夏休みなど長期の休業期間でも学校給食を無料で食べられる制度」は実現できたら素晴らしい。生活困窮家庭などでは、給食が唯一の栄養源ということもあります。

緊急事態宣言下では、収入が減り、保育園・小学校の休園・休校で給食がなくなった結果、「十分に子どもたちに食べさせてあげられない」という家庭の声を聞きました。長期の休園・休校中でも給食を提供することによって、多くの親子が救われるはずです。

【山本太郎】https://taro-yamamoto.tokyo/policy/

 

山本氏は、「全都民に10万円給付」などのコロナ損失の底上げ対策が目立っていますが、公約では子ども関連の政策についても言及しています。

まず、待機児童問題について。

待機児童をなくすためには、園建設と人員を増やすことが必要とし、そのためには、「保育士の皆さんの社会的地位の向上に加えて、給与水準を国家公務員の正規の職員なみの水準に引き上げるべき」としっかり訴えています。この点、4候補の中では一番強く主張されているので評価できます。

次に、子どもの貧困対策について。

子どもだけでなく、高齢者、シングルマザーなど誰もが気軽に立ち寄れる「みんなの居場所」をインフラとして整備することとしています。既に都では「こども食堂」の運営を支援する自治体に補助を行っていますが、これを拡充し、「みんなの居場所」によって地域で孤立する子どもや親を作らせないということです。

親子を孤立させないというのは非常に大事ですが、コロナ禍で「こども食堂」のような集合型福祉の運営が難しくなっているのと、本当に支援が必要な人が「困っていることを周りに知られたくない」と思ってみんなが集まるところに出て行けず孤立してしまっている問題があります。

なので、子どもたちに食料を届ける「こども宅食」のような出前型福祉(アウトリーチ)についても言及してほしかったです。「こども宅食」のポイントは、単に食料を届けるだけではなく、配達員が利用者と言葉を交わしたりする中で、何らかのリスクを見つけた場合に支援につなげ、周りに知られることなく孤立を防ぐことです。

そして、障害児政策について。

山本氏は、「障害者のことは障害者が決める」をモットーにしていて、「都の障がい者政策部局の責任者に障がい当事者を立て、審議会等の政策決定の場には必ず障がい当事者を半数以上」とすることとし、学校については、「障がい者と健常者が分けられることなく一緒に学べるフルインクルーシブ教育を目指す」こととしています。

障害児については、フルインクルーシブ教育にしか言及がなかったのが残念。

また、公約中の「個々のニーズや障がいにあった十分な介護を保障するために重度訪問介護の充実を国や自治体と連携してはかります」の中身が知りたいです。重度訪問介護制度が抱える課題は大きく2つあって、①入浴や食事などの介助は対象だが、通勤や経済活動(就労)に関する支援は対象外であること、そして②子どもは対象外であることです。障害児が重度訪問介護を利用して、親の付き添いなしで学校に通えるようにしていただきたいです。

最後に、公約には入っていませんが、山本太郎候補は、過去にHPVワクチンに対して、反ワクチン的な発言をされています※2。これは子どもを守るという観点からは非常に問題です。

【小野泰輔】https://ono-taisuke.info/policy/

 

小野氏の公約では、「妊娠、出産、子育てへの大胆な投資を行う」こととしており、子育て応援券の導入、保育士の待遇改善(直接給付)などに言及している点は評価できます。

また、相対的貧困率の高いひとり親家庭の経済的支援・自立支援として、他の3候補は挙げていない「養育費の不払いを一定期間立て替える制度の導入」に言及しており、これは大事な点だと思います。厚生労働省の平成28年度全国母子世帯等調査※3によると、養育費を受けている母子世帯は約2割に過ぎず、これが母子世帯の貧困の大きな原因になっているので、一時的にでも立て替える制度があれば助かると思います。

さらに、12年間地方行政に携わってきた小野氏らしい働き方の提案も。

6月9日の都知事選記者会見では、

“東京の方々が、ICTの条件が揃っていれば、地方で家族と一緒にテレワークする、お子さんもタブレット学習しながら、1~2週間のんびり過ごす又は働く、それによって、地方にもお金が落ちるという良い循環もできる。”

とおっしゃっています。

公約でも、「テレワークのさらなる導入推進」、「満員電車解消を実現するための、隣県をも巻き込んだサテライト都市整備構想」や「タブレット端末の一人一台支給の早期実現や各家庭のインターネット環境整備の推進」を掲げています。

また、児童虐待防止策について。

児童相談所について、職員の充実、警察との連携、常勤弁護士の配置など強化をはかる」こととしています。そして、他の3候補は挙げていない「里親委託・特別養子縁組の普及、促進」に言及している点は評価できます。

ただ、小野候補が支援を受けている日本維新の会は、先の参議院議員選挙で、共同親権という非常に危険性の高い公約を掲げてしまっています。

どう危険なのか、はこちらにまとめてあるので、興味がある方はご覧ください。

離婚後共同親権は、なぜダメなのか


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2020年7月3日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。