否が応でも増える企業倒産と自主廃業

夏を過ぎると企業倒産と自主廃業が一気に増える可能性が出てきます。コロナ倒産の特徴は業種に偏りがある点です。統計的に圧倒的に多いのがサービス業。例えば6月の倒産件数は780件ですがうちサービス業は35.6%の278件に上っています。サービス業でも多いのが旅館、飲食業となっています。また小売り業の倒産数は12.4%程度でしたが今後増えていくと思います。専門家の予想では今年の倒産件数は2013年以来の1万件を超えるとされますが、個人的にはリーマンショックの頃の15000件越えも視野に入ってくるとみています。

(写真AC:編集部)

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秋に衝撃の倒産件数となる可能性は否定しません。理由は今回コロナ関連で苦しんでいる多くが資金的体力がない中小企業であり、夏までは頑張ろうと思っている会社が限界を迎えるとみているからです。上場会社はレナウン以外倒産していないのも今回の特徴です。しかもレナウンの倒産は厳密にはコロナ倒産とは言い難いものがあり、上場会社は今のところ耐え忍んでいるというふうに見えます。

なぜ、倒産件数が飛躍的に伸びる可能性があると予想できるでしょうか?それは金利と金融機関のポジション、雇用を切りにくいこと、そして安易な経営拡大政策の反動の組み合わせです。

多くの中小企業、しかも事業拡大政策をとってきた会社や個人事業主は経済が一定の巡航速度で展開し、成長できる前提で事業計画を練ったわけで一定の借金をして次のステージを目指してきました。ところがそれは3月に止まり、7月中旬を過ぎた今でも売り上げが戻らないという問題を抱えています。

特に外国人が急増したことを受けて追加投資をした宿泊業や飲食業、関連サービス業の方々にとっては悲劇としか言いようがありません。あるいは若者向けブランド、セシル マクビーが店舗事業撤退を発表しましたが、同事業はそもそも時代の波に乗り遅れ、衰退期にあった中でコロナが背中を押した形となるなど企業の余力が明暗を分ける結果となりそうです。

半沢直樹さんも同意すると思いますが、こんな時期、金融機関は雨が降っているので傘を貸しません。むしろ資金引き上げを進めています。借り入れをしている人は約定通り返済しないと差し押さえのリスクがありますが、銀行もそれを強要するとブーメランのように自分に跳ね返ってくるため新規融資はやらないけれど既存の事業ローンは個別対応でどうにか乗り切るつもりかもしれません。

金利が長年、地を這うような状態だったことも実は災いしています。借入金利が異様に低いと新規事業の参入のハードルは下がります。事業収支を策定する上で金利負担額がごくわずかであれば事業の採算性はよく見えるのは当たり前です。また、投資家や資本家にしても預金ではなく事業者に投資をしようという意識が芽生えやすくなります。本来であれば景気の良い時には金利が5%ぐらいであるべきで、景気が悪くなれば利下げというクッションがあるのが金融政策の基本中の基本であり、それで経済を調整できたのです。

残念ながら近年の日銀のポリシーは金利を下げるのりしろがないため、下げるのと同じ効果があるテクニカルな手法で金融市場を刺激しています。これは99%の中小企業にとってほとんど効果を実感できない別世界の技術論でしかないのです。つまり、日銀が本来進めるべく国民経済に寄り添い、企業経営と経済環境の温度調整という本来あるべき機能はもう10数年前に失ったままになっているのです。

これは本質的な中小企業の経営的体力増強が図れなかったのみならず、安易な末端価格競争を増長し、ゾンビ企業を増やしました。では日銀がゼロ金利でも市中銀行が5%で貸せばいいだろうという話ですが、それでも貸しません。市中銀行の与信審査機能は不動産担保が十分であるか、過去にすでに十分な利益が生まれる事業に育っていない限り判断能力を失ったのです。よって行きつくところは「一流の大手」しか残っていないのです。マザーズやジャスダックではだめで東証一部ならジャンジャンお貸しします、というえげつなさなのです。

ただ、外から見れば「なぜこんな事業が残っているのだろう」というものが多数あったのも事実。淘汰されることで経済と経営が正しい軌道に戻りやすくなるメリットもあります。特に経営者で高齢になり、後継者も十分に育っていないようなところには相当の逆風になることは確実でしょう。

有名企業は倒産しないかもしれませんが、中小企業や個人事業主には相当冷たい秋風が吹きそうな予感がいたします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年7月21日の記事より転載させていただきました。