マイナンバーカードを使って登録したキャッシュレス支払い手段で支払いまたはチャージをすればその金額の25パーセントがポイント還元されるというマイナポイント制度だが、9月からの実施に先立って7月1日からマイナポイントの予約(マイキーIDの発行)が始まった。予約者は12日時点で210万人に達したということだから、まずまずの滑り出しだろう。
消費の活性化、マイナンバーカードの普及促進、官民キャッシュレス決済基盤の構築を目的に提供されることとなったマイナポイントは、制度を作った時はそれなりの意義があったかもしれないが、新型コロナの第二波の到来が危惧されている今となっては、このために2000億円もの国費を使うのは、もったいないと思うのは私だけだろうか。
これだけのお金があったら、新型コロナ対策で医療体制の充実や医療従事者の支援に使った方が有意義だ。また、新型コロナショックによる経済の痛みはこれから本格化する。
6月の日本の輸出は前年比マイナス26.2%となり、貿易収支は2688億円と3か月連続の赤字となっている。新型コロナの影響で世界経済が縮小する中で、厳しい貿易の数字は今後も続くだろう。また、国内経済も旅行業や飲食業を始めとして、皆が土俵際で精いっぱい踏ん張っている状況だから、なおさらこの2000億円がもったいなく見える。
マイナンバーカードの普及のために、10万円の特別給付金のオンライン申請を認めたり、マイナポイントでキャッシュレス決済に5000円相当のポイントを還元したり、お金で国民の歓心を買ってマイナンバーカードの普及を行うしかカード普及の手段がないわけではなかろう。
マイナンバーカードが普及しないのは、その利便性があまり感じられないことと、個人情報保護に不安があることが最大の理由だ。
利便性に関しては、マイナンバー制度のネット上の入り口であるマイナポータルの「ぴったりサービス」を見てみると、電子申請が可能な行政サービスの案内が掲載されているが、実際に電子申請できる手続きはまだまだ少なく、結局は紙の用紙に記入して市区町村役場に申請しなければならないものが多い。行政サービスのデジタル化が遅れていることがマイナンバーカードの魅力を大きく損なっている。
一方、マイナンバーカードの紛失やパスワードの盗用、あるいは政府機関からのデータの漏えいへの危惧だが、例えばスマホを使った場合、マイナポータルにログインするには、その都度マイナンバーカードをスマホにかざした上で、パスワードを入力しなければならず、利用者としては、いちいち面倒なだけでなく、カードを落としたり、盗まれたり、マイナンバーやパスワードを盗み見られるといった危険を感じてしまう。
これに関しては、世界のIT先進企業の間ではFIDO(ファイド、Fast Identity Online)という認証方法が従来のIDとパスワードによる認証にとって代わるものとして開発されている。日本でも2年ほど前から、Yahoo JAPANのサービスの利用や三菱UFJ銀行の口座へのアクセスなどをこの方法ですることが出来るようになっているので、知る人ぞ知る技術だ。マイナンバーカードもこの技術を取り入れることが必要だ。
FIDOは生体認証ができるスマホ等で指紋や顔などを使って本人認証をする仕組みで、指紋や顔の情報は本人の持つスマホにとどまったまま、サービスを提供する企業側には渡らない。企業側には、本人が生体認証を済ませたスマホから企業のサービスへアクセスを試みているという情報が暗号化されて伝えられるだけだ。
これだとスマホを落としても、本人の生体情報がないので第三者が本人になりすますことはできない。また企業側も、生体情報の大きなデータベースを持つ必要がなく、データベースがハッキングされる危険もない。
FIDOはGoogle、 Microsoft、Amazon、Facebook、AMEX、Master Card、VISAなど世界的大企業がアライアンスを作ってその開発と普及を行っており、日本からもNTTドコモ、ヤフー、LINEのほか、日立、富士通、楽天、三菱UFJ銀行、JCBなど少なからぬ企業がアライアンスに参加している。
これには生体認証機能が備わったスマホなどの端末が必要なので、誰もが利用可能という訳ではないが、FIDOの採用によってマイナンバーやパスワードの盗難の危険性がなくなり、マイナンバーカード取得に対する不安感が払拭されると思う。
FIDOは当面は金融機関等のサービスを中心に利用が広がって行くだろうが、政府もこのアライアンスの一員に加わることを検討してみてはどうだろうか。マイナンバーカードの普及には、マイナポイントよりもその方が近道のような気がする。