皆様ご承知のとおり、7月31日の東芝第181期定時株主総会におきまして、会社側上程議案がすべて可決され、株主提案についてはすべて否決されました。会社側の取締役候補者12名がすべて選任され、2名の株主側の候補者合計5名の取締役候補者は選任されませんでした。まだ議決権行使の結果(賛否の票数)については開示されていませんが、コロナ禍での株主総会について、まずは関係者の皆様の健康に支障が出ませんことを祈念しております(ご苦労様でした)。
本件について、私は完全な野次馬的な評論しかできませんが、これまでメディアや会社側リリースから伝えられる情報だけをみるかぎり、ほぼ予想された結論であります。ただ、取締役候補者の選任にあたり、議決権を行使する株主の皆様は、「監査」と「監督」の区別がどこまで理解されたうえで投票に至ったのだろうか・・・といった点について懸念を抱いております。
ご承知のとおり、東芝は「自他ともに認めるガバナンスの優等生」として、2003年に監査役会設置会社から指名委員会等設置会社(当時は「委員会設置会社」)に移行しました。そこには監査役(会)は不在であり、監査権限は取締役会から選定された取締役によって構成される「監査委員会」が組織的に行使することになります。つまり、監査委員会を構成する取締役の方々は、取締役会構成員としての「監督」機能と、監査委員会の構成員としての「監査」機能を果たすことになります。
では、東芝の「監査委員会」はどのように監査機能を果たすのでしょうか?米国のように監査委員会は年に数回開催されるだけで、内部監査機能をチェックする役割に徹するのか、それとも「監査役会」に類似した形で常勤監査委員が往査中心の監視・検証手続きに従事するのか、2015年の会計不祥事を踏まえて、今後どのように監査委員会の役割を果たそうとされるのか、会社側リリースを読んでもよくわかりませんでした。
会社側の社外取締役候補者の皆様も、当然のことながら見識のある方ばかりです。ただ、それは取締役会の構成員として監督機能を果たすうえでは申し分のない方々ですが、「監査」機能を果たすうえではどうなのでしょうか。それは東芝が(指名委員会等設置会社であるがゆえに)目指す監査の在り方が対外的に示されなければ判断できないように思うのです。
ここからは、野次馬の勝手な意見でありますが、私は2015年の会計不正事件(および事後の第三者委員会報告書の提言)、先日の循環取引への関与、そしてメディアで取締役会議長が「自分たちは9割やってきたつもりだが、世間からは信用されていない」(7月13日付け日経ニュース)と述べられたような「社会からの評価」を前提とするならば、今の東芝には「社外監査役」が必要ではないか、と考えています。
たしかに社外取締役として選任される以上、経営を監督することも重要ですが、些細な兆候をもとに自ら業務執行を調査したり、その兆候を発見できないシステムがあればその不備を課題として問題提起するような監査役としての役割こそ、「監督機能」に活きるのではないでしょうか。
ちなみに7月31日にリリースされた経産省「社外取締役実務指針」でも、また、そこで参照されている平成31年9月28日改訂版「CGS研究会ガイドライン」でも、監査委員である社外取締役には、細かなコンプライアンス違反等の調査に関与することは、社外取締役の役割として「のぞましくない」とは書かれていません(CGSガイドラインには「本来、細かな業務執行に関わることはのぞましくないが、監査委員である社外取締役は除外する」とあります)。
このたび東芝は、内部監査部門の増強を図るそうですが、そうであればぜひとも監査委員である社外取締役の方々には「社外監査役」に求められる役割を期待したいと思います。
そして社外監査役の役割を「守りのガバナンス」という言葉で表現する時代ではなくなりました。たとえば2015年の東芝の事件からの教訓は、①大型M&Aの意思決定過程の健全性、②社内におけるモニタリングのための情報共有、③ハラスメント(職場環境配慮)、④経理部門、監査部門への人事評価の在り方(指導機能と保証機能)、⑤不正の兆候発見能力(見て見ぬふりを容認する組織文化を含めて)等、守りと攻めの一体としての経営監督が必要、ということです。
取締役の職務執行の監視・検証は、単なる「コンプライアンス」では済まないものであることを念頭に置いた監査活動が求められる時代であることを、十分に認識しておく必要があります。
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年8月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。