中国共産党による香港への国家安全維持法(以下、安全法)の施行強行に伴い、ファイブアイズを中心に香港との犯罪人引き渡し条約(以下、条約)を停止する動きが活発化し、3日までに6ヵ国が停止を公表した。
先鋒は7月4日のカナダだった。華為の孟晩舟CFOを米国の要請で18年暮れに逮捕していて、米中対決の狭間にいるせいか、トルドー首相の決断は素早かった。香港への高度な軍備品の輸出禁止も併せて発表した。(参照:ブルームバーグ)
次鋒は9日に発表した豪州。コロナで中国を非難したモリソン首相への意趣返しに、中国は豪州産の大麦や牛肉の輸入に関税や制限で嫌がらせしている。が、硬骨漢のモリソンは怯むことなく停止を決めた。香港からの技能保有移民に5年間のビザを与え、永住権への道も開いた。(参照:ブルームバーグ)
三陣は英国だ。ラーブ外相は20日、香港との条約を停止し、「条約が悪用されるのを避けることが確実になるまで対応は変更しない」と議会で声明した。英国はこれに先立って華為5Gの排除や香港人への英国滞在旅券の付与を公表している。(参照:NHK)
中堅は28日に発表したニュージーランド。ピーターズ外相は合わせて、香港への渡航情報も更新、「安全法により逮捕や起訴されるリスクが高まる恐れがある」と警告した。また、香港への軍事・軍民両用物資や科学技術の輸出につき、今後は中国への輸出品と同様に扱うとした。(参照:BBC)
三将はファイブアイズ以外からエントリーのドイツだ*。マース外相は31日、香港政府の立法議会選挙延期や一部民主派の立候補禁止は「市民の権利を一段と制限するものだ」と批判、条約を停止すると表明した。(参照:時事通信)
副将もファイブアイズでないフランス*。仏外務省は3日に声明を発表、安全法は香港の「一国二制度」の原則に疑問を投げ掛けるものと批判し、「最近の動向を考慮し、香港との同条約の批准(*締結済だが未批准だった)を進めない」との意向を示した。(参照:AFP)
大将の米国はまだ控室だが、柔道団体戦では中堅辺りの強いのが敵の大将まで屠ってしまい、味方の大将に出番が回らないことがある。対する中国は都度「甚だしい内政干渉だ」との常套句に加え、いつもは言われる側の「重大な国際法違反」も繰り出して反発する。が、独仏の早々の決定は痛かろう。
上記6ヵ国の外に同条約を結んでいる国は、米国の他、インド、オランダ、韓国、フィリピン、シンガポール、ポルトガル、チェコなど14ヵ国ある。遠からず残りの国も停止するのではなかろうか。というのも、1日に香港警察が飛んでもない暴挙に出たからだ。(参照:日経新聞)
香港警察は1日までに、海外に滞在する米国籍の民主活動家、朱牧民氏や7月2日に英国に脱出したらしいデモシストの設立者、羅冠聡(ネイサン・ロー)氏など6人を、安全法違反の容疑で指名手配したのだ。施行以来一月間に活動家ら15名を逮捕したが、海外への指名手配は初。
条約があってもカナダの孟CEOのように留め置く場合もあれば、条約がなくとも二ヵ国間の話し合いで引き渡す場合もあろう。が、この6人が香港に引き渡されることはあり得まいし、自由主義国家は須らく条約停止に向かうはず。韓国などの14ヵ国がいつ条約停止するか注目だ。
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最後はその韓国の同条約の話題。上述した香港の問題が、自由や法の支配や民主主義が主題であるのに比べ、こちらは余りにも低レベル。主人公は韓国外交官で、起こした事件がセクハラ・わいせつ行為というから、如何にも今どきの韓国丸出しの珍事。
3日の朝鮮日報「韓国外交部、セクハラ外交官に帰任辞令」に依れば、駐ニュージーランド(NZ)韓国大使館員だったA氏が17年12月、「大使館職員のNZ人男性の尻・胸・股間を手でつかむなど計3回のわいせつ行為・セクハラ」をした容疑で、今般、帰国辞令を発令されたというのだ。
A氏はNZ警察の調査を受ける前の18年初に帰国、外交部の内部調査で減給1ヵ月の処分を受けた。その後「アジアの主要国の総領事」として勤務中だが、「(NZ側の)公式要請に、刑事司法協力と犯罪人引き渡しなどの手続きに従って我々は協力できる」と韓国外交部がコメントしたとある。
これでは詳細が解らないが、NZ紙「Stuff」や中央日報が詳報している。韓国紙は匿名だが「Stuff」は、外交官の名前がまさかの「Hongkon Kim(金ホンコン)」で、被害者はNZ人(Kiwi)の男性大使館職員、ホンコン氏の勤務地がフィリピン(比国)であるとまで、写真入りで報じている。
ホンコン氏のみならず文在寅や韓国外交部が赤っ恥の体なのは、28日に文在寅がNZのアーダーン首相に電話を掛けて会談をしたからだ。新型コロナのワクチンなどの話題を出汁に、WTOの韓国女性候補への支持を要請したのだが、同首相からこのセクハラ事件を持ち出されたのだ。
青瓦台の核心関係者は29日、同首相が「自国メディアに報じられた事件に言及し、大統領が『関係部署が事実関係を確認して処理するだろう』と答えたのが全部」と説明した。だが、同首相は「問題は終わっていない。外交官にも、NZ国民にも法は法だ。我々の正義が実現できるように韓国政府に引き続き促すだろう」と明らかにした。(参照:30日の中央日報)
ピーターズ豪副首相兼外相も1日*、「韓国政府は彼(*ホンコン氏)に外交官免責特権を放棄させ、NZに送り返せ」と要求した。というのも、事件がNZで報じられた本年4月に外交部が「外交官特権および免除など諸般の事情を総合的に検討」して協力を拒否した、と公式見解を出したからだ。(参照:朝鮮日報)
だが韓国外交部は先月28日、「外交部が特権免除を取りざたして特定の人物を保護しているなどというのは全くない」と虚言を弄した。青瓦台がご存じないウィーン条約には「(外交官)特権と免除の目的は個人の利益のためではなく、国を代表する外交公館職務の効率的な遂行を確保するため」とある。
そんな矢先にわざわざアーダーン首相に電話を掛けて、藪を突いてしまう文在寅の外交センスのなさには呆れるが、斯くて青瓦台は、3日の朝鮮日報が報じた如く、処分済のホンコン氏を比国から帰国させる辞令を出さざるを得なくなったという次第。
ところが、話をここで終わらせないのが今の韓国。何と駐韓比大使館で30代女性にセクハラをした容疑で、元駐韓比大使ノエ・ウォン氏の逮捕状執行に協力するよう比国に要請しているというのだ。ウォン氏は問題が発覚した今年初め比国に帰り、退職した。
比国が協力的でないとして韓国警察は今年5月、ICPOに要請し、逮捕状が発行された重罪被疑者に下される「赤手配」を発令させた。4日の朝鮮日報はこれをホンコン氏の事件と併せて報じ、「ネロナムブル(自分がやればロマンス、他人がやれば不倫)」式のダブスタと青瓦台を難じている。
文在寅とは人権派弁護士仲間で同志だった朴元淳ソウル市長の死去は、セクハラ疑惑が動機とも言われる。そして目下の韓国与党「共に民主党」はこの二人が長らく主導した。その韓国政府だからこその実に頓馬な出来事ではないか。