夏に「特別」も「普通」もない 〜 コロナ問題と都政への疑問

太田 房江

新型コロナウイルスの問題が起きてから、施設にいる90歳の母とは面会もままならず、高齢者の重症化リスクが高いことに一時は大いに不安な気持ちになりました。そんな中、「第二波」騒動が起きてからというもの、一部の知事やメディアから発信される内容について、そのバラバラ感とともに、大いに疑問を持たざるを得ない事象が起こっています。

私の地元・大阪では、吉村知事が大阪はびきの医療センターの実験結果として、うがい薬でうがいをすると、唾液中のウイルスが減る可能性が出てきて今後1000人規模で検証すると発表したものの、うがい薬の買い占め騒ぎが全国各地で起きてしまい、吉村知事への批判が噴出しています。

実験で一定の可能性はあったことから全否定するものではありませんが、記者会見では「研究途中の発表は前のめりでは」とツッコミが入り、うがい薬の買い占め騒ぎや製造会社の株価に影響を与えたことを考えると、知事自身の影響力を含めて、いささか軽率だったと言わざるをえません。

実相が見えない小池知事のデータ発表

都知事公式Facebookより

しかし、私がそれ以上に疑問を持つのは、小池都知事のほうです。先週、小池さんにツイッターで三度直接質問しました。最初に出したコメントがネットニュースに取り上げられたことは全く予想外のことでしたが、記事でも取り上げられているように小池知事に対して私はこう述べました。

毎日、東京都の感染者数を発表されてますが、大阪府は医療崩壊を防ぐために、軽症者や無症状者を隔離する宿泊施設の占有率まで発表してますよ。そういう科学的な根拠を伴う説明責任を果たせなければ、いくら”お出かけ自粛”を要請しても、都民は言うことを聞かないのでは?

その翌日に出した2本目のツイートでは、クラスター対策で不可欠な区市町村別のデータについて、感染者数こそ出しているものの陽性率の発表は自治体任せになっている点を指摘しました。

コロナに関する報道では、新規感染者数ばかりが連日取り上げていることとも関連しますが、「陽性率=陽性人数/検査人数」ですから、分母であるPCR検査の数も含めてどうなっているのか。PCR検査はこの数か月で検査数も精度もともに向上していますから、その「分母」も含めないと実相は見えてきません

そして、真の脅威は、重症者や死者の数、あるいはその増加によって引き起こされる医療崩壊ですから、行政やメディアは、これに照準を当てた数値を積極的に明らかにし、国民に適正なリスクを勘案してもらうよう促していかなければ、いたずらに不安や萎縮を招くだけで、社会も経済も総崩れになってしまいます。

ちなみに、グラフのように、いわゆる第2波の下では、重症者数、死亡者数は低位に抑えられており、医療関係者への感謝とともに、こうした事実を国民に伝えていくことが重要と考えます。

厚生労働省HP(国内の発生状況より)

そう考えると小池都政は、日本のエンジンたる首都を預かっていながら、その情報開示のあり方が適切といえるでしょうか。しかもクラスター対策に最も重要な軽症者の隔離施設について、ホテルの借り換えも行っておらず、その結果病院にしわ寄せがいっているなど、足元の区との連携不足と併せメディアに指摘されています。

「中途半端な情報を出して政権非難に結びつけようとしているのではないか」と、現にそういう邪推も出ているほど都の一連の対応は不可解なものが目立ちます。大阪府庁での経験を考えると、都庁はもっと適切に対応する能力を持っているはず、という疑問もわいてきます。

メディアも、小池知事が「特別な夏」とフリップをかざしている様子を漫然と報じるのではなく、都政のコロナ対応の問題点をしっかり指摘すべきではないでしょうか。

スパコンを経済予測に活用を

最後になりますが、一連のコロナのデータの使い方、出し方をめぐる問題で、私が不思議に思うのは、日本が誇るスーパーコンピューターをもっと活用すべきというような意見がなぜ出てこないのかという点です。理化学研究所が先月、「富岳」を活用し、10日で約2000種のコロナの治療薬候補を選別したことを発表しましたが、感染の広がり方や今後の経済の予測にどんどん「富岳」を使って、「正しく恐れる」国民性につなげてもらいたいものだと思います。

私の専門領域である経済に関していえば、失業率は2.8%(6月)に留まっていますが、店舗の休業などで事実上仕事がない状態の「休業者」は4月時点で597万人にのぼっており、潜在的失業率がどれほどなのか、そこも含めて経済・雇用危機の実相が見えづらくなっています。なお、帝国データバンクは、8月の失業率を4.3%とシミュレーションしました。

リーマン級かそれ以上なのか、思ったほど長期化はしないのか。何しろ、アメリカの4-6月期の実質GDPが年換算で▲32.9%、EUは▲40.3%(4-6月期、年換算)と発表されていますから、いくら日本が内需でがんばっても、経済の回復には限界があると思われます。それこそ、経済についても、「正しく恐れ」、適切な対応をスピード感をもってとる必要があると考えます。

財政的な限界も見え始めている中で、どこまで政策的な投資が必要になるのか、精度の高いシミュレーションが必要です。今後私としても党内や霞が関との議論でしっかり働きかけていきたいと思います。