「魔女狩り」は今なお起きている!

1585年11月4日、バーデン(スイス)での3人の魔女の処刑(Wikipedia)

21世紀の今日にも魔女狩りが世界各地で行われている。国連の報告書によれば、世界各地で過去も現在も魔女狩りは起きている。

魔女狩りはキリスト教、イスラム教、仏教、ヒンズー教の全ての宗教圏で行われてきたし、今日も続いている。その数は36カ国にも及ぶという。特に、アフリカ、東南アジア、南米地域で頻繁に行われている。コンゴや他のアフリカ諸国では魔女狩りは魔女信仰と密接な関係があるという。

「国際カトリック援助機関(Hilfswerk)」のドイツの「ミシオ・アーヘン」が2020年8月10日を「魔女狩り反対国際デー」として、魔女狩りが人権蹂躙に当たるとアピールしている。長い間、見過ごされてきた非人道的な迷信で、無抵抗の女性たち、子供たちが犠牲となってきた。同運動のリーダー、Dirk Bingener 神父は、「少なくとも世界36カ国で魔女として罪をきせられ、迫害され、多くの場合、殺されている」と報告している。

魔女は超自然的な力を有し、人間に悪い影響を与えると信じられている。古い欧州の俗信だが、魔女への信仰は貧困、困窮、疫病、社会的危機、教育の欠如などがその背景にある。一方、魔女狩りをする側の動機には貪欲や問題をカムフラージュするために特定の人間をスケープゴートにしたり、個人的に復讐するなどのケースが見られる。

魔女と呼ばれた人は基本的に女性や子供が多い、男性の魔法使いが多い国、地域もあるという。明確な定義はなく、国、地域によって魔女の性質は異なる。昔は、魔女は悪魔と契約した人間という意味合いがあったが、現在は、「奥さまは魔女」や「サブリナ」といったテレビ番組の主人公のように、超能力でさまざまな不思議なことをする魔女が登場してきた。魔女も資本主義社会の需要に応じて様相を変えてきたわけだ。

今月10日を国際デーに選んだのは、パプアニューギニアの村で若い母親が2012年8月10日、魔女狩りされるところを自力で抜け出し、解放されたことを受け、指定したという。彼女はその後、スイスの修道女と連携して魔女狩りに反対する運動を始めている。

ミシオは魔女狩りが依然行われている国を記した世界地図を作製している。データは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)やメディア報道、そしてミシオの独自情報に基づくもので、2020年8月現在の状況だ。魔女狩りに関するデータ収集は難しい。なぜなら、多くの魔女狩りは公に報じられることがないからだ。同時に、その情報の信ぴょう性を検証する手段は限られ、魔女狩りが行われていると指摘された国は国内の魔女狩りの事態を解明したり、報告することに関心がないからだ。

In diesen 36 Landern leiden Menschen unter Hexenwahn.

出典「Missio」公式サイトから

15世紀から17世紀にかけて魔女狩りが広がった欧州諸国では今日、魔女狩りはさすがにないが、それに酷似した社会現象はやはりある。現代社会で見られる組織的ハラスメントとしてのモビング(Mobbing、いじめ)は21世紀の魔女狩り的な要素が見られる。

学校、会社で特定の人間、少数民族系や外国人を集中的に攻撃したり、冷笑したりする。その犠牲者が耐えられずに自殺したという事例が報じられている。中世時代のような、宗教的な動機に基づく魔女狩りはなくなった半面、インターネットを利用した言葉を武器とした虐め、モビングは多い。

参考までに、魔女狩りと言えば、欧州ではカトリック教会を含むキリスト教会の影響が大きく、その根拠に旧約聖書「出エジプト記」22章18節の「魔法使の女は、これを生かしておいてはならない」という聖句が引用される。

しかし、最近の魔女研究家たちは「魔女狩りは教会が主導したというより、その社会コミュニティの一種のパニック現象だった」と受け取り出している。同じことが現代の魔女狩り現象にもいえるかもしれない。ただし、現代の魔女狩りにはメディアが大きな役割を果たしているように思えるのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年8月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。