最高の経済対策は自粛をやめること

池田 信夫

動画こども版は「大人でもわかりにくい」と評判が悪いので、記事で補足しておきます。日本のGDP(国内総生産)が「年率マイナス27.8%」という数字は戦後最悪ですが、これは今年のGDPが3割近く減るという意味ではありません。今年1~3月期に比べた4~6月期のGDPはマイナス7.8%です。

これを(季節調整して)4倍したのが27.8%ですが、今回のような突発的な需要ショックのときは前期比で大きなマイナスになるのが普通で、そのまま同じペースで減り続けることはありません。日本の場合も7~9月期はプラスに戻り、2020年度通期ではマイナス7.1%というのが日経NEEDSの予測です。

だから「年率換算」という数字は、経済統計では使いません。次の図(青い棒グラフ)はOECD(経済協力開発機構)が各国の4~6月期GDPを前年同期比で比較したものですが、これでみると日本はマイナス9.9%で、先進国の中では打撃の軽い国です。

各国のGDP減少率(OECD)と移動減少率(グーグル)

赤い棒グラフは人の移動の減少率をグーグルの統計でみたものですが、先進国ではGDP減少率が移動の減少率の半分ぐらいです。つまりロックダウンや自粛などの政府の介入が不況の最大の原因だということは明らかです。

日本経済がヨーロッパほど悪くないのは、ロックダウン(都市封鎖)をしなかったからです。同じくロックダウンしなかった台湾と韓国も落ち込みが小さい。これを「封じ込めのおかげだ」と錯覚している人もいますが、感染率は東アジアではほぼ同じ。問題は感染ではなく移動制限なのです。

「命と経済のトレードオフ」は存在しない

こういう問題を命と経済のトレードオフといいます。命を救おうとして自粛で人の移動を制限すると経済が悪くなり、経済を回復させるために移動制限をやめると命が失われるという問題です。それは本当でしょうか?

たしかにここ半年で新型コロナの感染はふえましたが、それは大した問題ではありません。問題は病院のベッドや人工呼吸器が足りなくなって、助かるはずの患者が死ぬことですが、ベッドがいちばん足りなかった東京でも、そういうケースは1人もありません。

つまり自粛で救われた命はゼロでした。命と経済のトレードオフはなかったのです。日本は50兆円(GDPの9.9%)のお金と、多くの人の仕事を失っただけです。

だからここから脱却する方法も簡単です。この不況は100%政府の作り出したものなので、そこから回復する最善の経済対策は、財政バラマキではなく政府が介入から撤退することです。

世界的にはスウェーデンが一貫してその方針をとっていますが、イスラエルやチェコなど、多くの国がロックダウンをやめて介入から撤退しています。日本も実質的にスウェーデンに近いので、必要なのは政府が正直になって「もう自粛はやめましょう」と呼びかけることだけです。