8月24日、世田谷区の保坂展人区長が記者会見を開き、「誰でもいつでも何度でも」とぶち上げてきたPCR検査拡大について、本人の口から公式に説明がなされた。このキャッチフレーズがすでに破綻していることは、私のブログでも早くから指摘してきたので、経緯はここでは述べない。会見で公表された資料は以下の通り。
内容は大きくふたつ。資料左側①は、有症状者や濃厚接触者を対象に、これまでずっと保健所が行ってきた検査と医師会の保険診療による検査の処理能力を、1日300から600件へ強化するというもの。これについては、私もかねてから主張してきたので、異論はない。というか、ずいぶん時間がかかったなあ、という印象。
問題は資料右側②の「社会的検査」なるもの。これが、区長が言ってきた「誰でもいつでも何度でも」の実体である。対象者は区内で(1)介護事業所で働く職員(2)保育園・幼稚園で働く職員(3)特養等の施設入所予定者の方で、その数は約23000人である。予算は4億1400万円。1日1000人を検査するとしており、約2ヵ月くらいかけて実施とのこと。4検体を一度に検査するプール方式を採用するというが、まだ詳細は検討中と言っていた。
まず、無症状者の23000人を2ヵ月もかけて検査する意味は、コロナの性質上、まったく見い出せない。やるなら、同じ対象者を毎週検査するくらいのことをしなければ、正確な検査ができないことは、専門家でなくてもわかることだ。
そして、これは誤解されているが、区が強制的に23000人を検査するわけではなく、区は「これから希望者を募る」と言っている。実施して欲しい事業者が区に申し込むのだが、たとえば、ある事業主がやって欲しいと希望したとして、従業員の意思はどうなるのか。そこに強制性は発生しないか。もし陽性者が出れば、その人は隔離される。濃厚接触者も特定され、事業所も消毒のために閉鎖せざるを得ない。隔離先はどこなのか? どれくらい用意しているのか?
これらの案件には、保健所が関与しなければならない。区長は会見で、この「社会的検査」は保健所に負担をかけないためにやる、と言っていた。しかし、結果として保健所の仕事を増やすことになるのではないのか。それに、閉鎖中の事業者の利益損失はどうするのか。あるいは、従業員の意思を尊重したとして、受けない人を認めれば、それはそれで検査の目的から外れる。こういったリスクを考えたとき、どれだけの人が手を挙げるのかまったくわからない。
仮に23000人を検査すれば、陽性者はある程度出るだろう。その時、その人や家族のプライバシーは守れるのか。たとえば、文京区ではこんな問題が起きている(記事参照)。自分のせいで事業所が閉鎖することになれば、よほどの鈍感者でない限り、当人の心理的負担は生じる。心のケアはどうするのか。区長がぶち上げたこのパフォーマンスは、魔女狩り的様相を帯びており、大いに人権に関わる。
そもそも、プール方式なるものも、区長が勝手に入れ込んでいる、東大先端研の児玉龍彦名誉教授の実験次第で、いかようにも変更される可能性があるとのことで、その検査方式は信憑性を欠いている。委託先の民間会社なるものも、どこなのか明らかでない。しかも、スタートは10月からで、コロナの状況がどうなっているか皆目わからない。ざっと思いつくだけでも問題は次から次へと出てくるわけで、到底、このまま血税4億円をこれに充てることに賛成はできない。