共和党大会最終日の28日、トランプ大統領が受諾演説を行いました。慣例を破り初日から登場して1時間にもわたってスピーチしただけあって、受諾演説自体もホワイトハウスからと異例のライブ配信を断行。そもそも、24日からの党大会では本人と三男のバロンくん以外トランプ家から5人が登壇するなど「一家総出」状態でした。
さらに、ポンペオ国務長官が訪問中のエルサレムから収録で参加するなど、今回の共和党大会は話題に事欠かないイベントとなったことは間違いありません。なお、受諾演説を生で見ようとホワイトハウスには約1,500人の聴衆が集まったとされ、拍手や掛け声などで収録の演説では実現できない臨場感を与えていました。
チャート:トランプ氏とバイデン氏の支持率、引き続き約7p差
長女イバンカ氏が、リンカーン元大統領を意識したのか「人民の大統領(People’s President)」として紹介したトランプ氏の演説のポイントは、以下の通り。
〇拍手、観衆からの掛け声
・聴衆からの拍手は109回
・USAコールは少なくとも3回
→①指名を受諾すると宣言した時
→②国境警備隊へ謝意を表した時
→③中国をめぐる自身とバイデン氏の対比を表した時:トランプ氏による「バイデン氏の政策アジェンダは“メイド・イン・チャイナ”(グローバル化の流れで米企業が雇用を中国へシフトしたため)で、私の政策アジェンダは“メイド・イン・アメリカ”だ」と発言した直後
・「あと4年」コールは少なくとも2回
→①黒人への貢献を自画自賛した時:トランプ氏による「リンカーン元大統領以来、最もアフリカ系アメリカ人の地域社会に尽くした・・・そして私は大統領に就任して3年で、バイデン氏の47年間(筆者注:バイデン氏は1973年から2009年まで上院議員、2009年以降を合わせた年数)よりずっと黒人の地域社会に貢献した。再選されれば、最高の時はこれからやってくる」との発言の直後(実際、2019年10月に黒人の失業率は過去最低を記録)
→②極左を批判した時:トランプ氏による「キャンセル文化(SNSなど相手の意見を拒絶、糾弾すること)の目的は、まともな米国人の生活に、放火や追放への恐怖を与えることだ・・極左はあなた方の考えが間違いだといい、あなた方の考えが正しいと言わせないよう追い込んでいる。しかし、極左は11月3日に稲妻のような忘れられないメッセージを受け取るだろう」との発言の直後
〇特定の言葉の登場回数
・バイデン氏は34回
→トランプ氏は「バイデン氏は米国の魂の救済者ではなく、米国の雇用の破壊者だ」などと徹頭徹尾、バイデン氏を糾弾
・中国は15回
→新型コロナウイルスを「チャイナ・ウイルス」と呼ぶなど、トランプ節が炸裂。さらに、トランプ氏はバイデン氏の投票行動の履歴を挙げ「中国のWTO加盟を支持した」と非難、さらにバイデン氏は副大統領時代に中国の台頭を「前向きな発展」と評価していたと攻撃
・扇動者、過激派は6回
→トランプ氏は「あなた方の投票が法令を遵守する米国人を守るのか、あるいは米国人に脅威をもたらす暴力的な過激派や扇動者、犯罪者が自由に行動する権利を与えるのかを決める」と発言、警察官による黒人殺害事件をきっかけに広がった暴動を「平和的な抗議活動」と評価した民主党を批判
・不法外国人は5回
→トランプ氏は「不法外国人に税金を投入し医療保険を提供するのか」など、保守的な見解を次々披露し、バイデン氏が政権を握った場合は逆の流れに向かうと警告
・黒人は4回
→トランプ氏は「私は大統領に就任して3年で、バイデン氏の47年間よりずっと黒人の地域社会に貢献した」と発言、黒人層の支持獲得に向けてアピール
・社会主義(者)は4回
→トランプ氏は「今回の選挙で、“アメリカン・ドリーム”を救うか、あるいは社会主義の政策アジェンダが我々の大切な運命を破壊してしまうかが決まる」、「バイデン氏は社会主義のトロイの木馬」と発言、マルクス主義やプログレッシブのサンダース上院議員に立ち向かう力がなければ、誰が制御するのかと問う
・極左は3回
→トランプ氏は「バイデン氏に大統領の権力を与えれば、極左が全米で警察組織の予算打ち切り、連邦政府の治安維持費を削減しかねない」と発言、オレゴン州ポートランドを始めとする暴動を連想させ、有権者に治安維持の重要性をアピール
・キャンセル文化は2回
→トランプ氏は「米国はキャンセル文化や言論統制、心を痛めつける服従の元に建国されたわけではない」と発言、ツイッターやフェイスブックなどのトランプ氏の投稿削除を始め、左派寄りでない思想が排除される傾向に警鐘を鳴らす
党大会の終幕を飾ったのはワシントンD.C.の夜空に高く舞い上がった花火と、勢ぞろいしたトランプ一家でした。4年の間に、共和党が「トランプ党」と化した象徴と捉えられるのではないでしょうか。それを裏付けるように、Youtubeでは党大会終了後に「トランプ2020」が2回も登場していたのは、印象的でした。
トランプ氏の演説は、イバンカ氏が「彼を支持するかしないかは別として、彼の立場はいつも明確」と語るだけあって直球な表現が多く、分かりやすいのですよね。そのトランプ氏「今回の選挙は、米国の歴史で最も重要」と発言しております。2回目の天下分け目の戦いをめぐるスケジュールは、以下の通り。
チャート:今後の討論会などを含めたスケジュール
足元、賭けサイトでバイデン氏の勝率は6月初旬時点の62%から8月26日に54%へ低下しました(トランプ氏は8月26日時点で45%)。さらに、民主党大会以降、バイデン氏の支持率は概して変わらずというところで、追い風が吹いたようには見えません。バイデン氏の受諾演説が収録だったため、盛り上がりに欠けたことが大きいのでしょう。ちなみに、2016年は8月26日時点でクリントン氏の勝率は77%、トランプ氏は21%だったんですね。
問題は討論会で、トランプ氏の舌鋒鋭い批判をどこまでかわしきれるのか。民主党予備選での討論会でも大きなヘッドラインを飾ったわけではなく、どちらかというとこの方が仰る通りステルス作戦(敵失)で得点を稼いできたバイデン氏。その点を意識したのか、ペロシ下院議長は「討論会を中止すべき」と主張するほどで、討論会の出来上がり次第では支持率にまた影響を及ぼしそうです。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2020年8月28日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。