素人のガバナンスと玄人のマネジメント

企業のガバナンス改革で重要な役割を演じるとされている社外取締役が、部外者として事業内容に精通していないものを経営の頂点の判断に関与させることの意味は何か、いわば素人にすぎないものに何が貢献できるというのか、逆にいえば、なぜ社内の玄人の経営者だけの意思決定ではいけないのかさて、素人のガバナンスと玄人のマネジメント、その役割分担はどうあるべきか。

どのような事業を営む企業にも、程度の差こそあれ、事業固有の専門技術的な要素があり、また、長い事業経験のなかで培われてきた実践的な知見や、顧客等との社会的関係性もあって、それらが企業の競争上の差別優位の基礎をなしている。そうした企業固有の歴史的に形成された基盤は、社内でしか通用しないような特異な文化や風土を形成することを通じて、一方では、企業固有の付加価値源泉ともなるが、他方では、社会常識に反した思考や行動を生み出してしまう可能性も否定できない

故に、素人というか、常識人の視点による外部評価が必要なのであるそれが社外取締役の機能だ。企業内部の生きた動態については、社外取締役は外部の素人から、それを真に理解することはできない。しかし、逆に、外部者だからこそ、企業固有の文化に染まることなく、中立的な常識人として、偏らない判断ができるのである

企業に不祥事等があったとき、中立的な第三者委員会が組織されて経緯の調査を行うのも、同じ趣旨である。不祥事は、専門技術的な瑕疵から起こるのではなく、企業風土に起因するガバナンスの欠陥から生じるからである

企業の経営上の業務執行は、専門家である経営者に委ねられるのが当然のことであり、逆に、業務執行を一任されたものが経営者なのである。このマネジメントの玄人に対して、マネジメントの素人は、素人であるが故に、常識的見地からする牽制機能を果たし得る、これが素人のガバナンスである

ならば、素人のガバナンスにおいては、専門家の知見の尊重が前提にされなくてはならない。経営執行部の提出した議案について、その実質的な内容面についての意見や判断を求められても、素人に何らの貢献もできるはずがなく、実際、そのようなことは求められてもいないはずなのある

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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