あなたが、三井住友銀行に100万円の預金をしたとしよう。
三井住友銀行は、そのうちの90万円を鈴木オートに貸し出す。(預金者が大量に引き出しを求めたときのために10%は準備金として残しておく)
三菱UFJ銀行の鈴木オートの口座に90万円が振り込まれる。
鈴木オートの支払いは月末なので、それまでの間、三菱UFJ銀行に90万円の預金が残る。
三菱UFJ銀行は、その90万円のうち準備金を差し引いた81万円を山田運送に貸し出す。
みずほ銀行の山田運送の口座に81万円が振り込まれる。
ここで、マネーの合計はいくらになっただろう?
あなたの100万円はなくならない。普通預金ならいつでも引き出せる。
鈴木オートも90万円を持っていて、月末の支払いに備えている。
山田運送も81万円を持っている。
合計すると、100万円+90万円+81万円で、271万円になる。
これはごまかしでも何でもないし、同じ銀行内の口座でも同じだ。
このように、貸し出しが連鎖することによってマネーが増えることを乗数効果という。
100万円+90万円+81万円・・・と繰り返されると、合計金額は100万円÷0.1となり1000万円になる(この計算式は理解できなくとも構わない)。
最初の100万円を出すのがあなたではなく日銀であっても同じだ。
日銀は、三井住友銀行が持っている国債を買って100万円を振り込む。
その後は、あなたが預金をしたときと同様で、貸し出しが繰り返されれば日銀が振り込んだ100万円は1000万円になる。
つまり、市中に出回るお金は、日銀が銀行に供給したお金の10倍になる。
市中に出回っているお金の合計をマネーストックという。
日銀の資金供給は、マネーストックを増やすことを目的としている。
アベノミクスで黒田日銀総裁の元、大規模な資金供給が行われた。
市中にたくさんのマネーが出回れば、相対的に財(モノやサービス)の価格が高くなって2%の物価上昇が見込めると考えたのだ。
ところが、2%の物価上昇は実現しなかった。
最初の例を見ればわかるように、マネーストックの増大は貸し出しの連鎖がなされることが前提だ。
最初の鈴木オートが、「新しい機械を買う必要もないし、貸してもらわなくてもいいよ」と借り入れを断れば、連鎖は最初から躓いてしまう。
山田運送も借金する必要がなければ銀行から借り入れようとしない。
つまり、世の中の資金需要が停滞していると、日銀がいくら頑張ってもお金は銀行の中で滞留してしまう。
「優良な貸出先がない」「借りてくれない」と銀行員が嘆いているのは、資金需要がないからだ。
資金需要がなくなった最大の原因をざっくり言うと、「新しい機械を買えば借金しても儲かる」「新しい工場を建てれば借金しても儲かる」という、企業の投資意欲が失われているからだ。
利息以上のリターンが見込める投資が見いだせなければ、どの企業も借金はしない。
コロナ禍で飲食業や観光業の資金需要は活発になっているが、それは損失の穴埋めや急場をしのぐ目的であって投資目的ではない。
きちんと利息を付けて返済するところがどのくらいあるか…それすら不安な状況だ。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2020年8月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。