安倍総理の突然の辞任びっくりしましたね。
7年8か月は本当にすごいと思います。
安倍政権の政策や政権運営も、進んだもの、課題を残したもの色々あったと思いますが、振り返ってみたいと思います。
1. 内政が大きく動くようになった
その方向性の是非は、政策によって評価が分かれるところですが、少なくとも過去の短命政権に比べて本当に大きく動くようになりました。
僕がかかわったものだけでも、待機児童対策の大幅な拡充(保育所落ちた日本死ねブログがきっかけ)、消費税10%引き上げの時の使途変更(幼児教育無償化)、4年で3回法改正し現場の体制を大幅に拡充した児童虐待など、支持率の高い政権らしくかつてないほど大きく動いたと思います。
また、財政再建を重視しなかったという背景もありますが、未婚のひとり親の寡婦控除の実現など、かつての保守的な政権があまり光を当てていなかったような幅広い層の利益も取り込んだように思います。
2.外交はとても進んだ。
外交の世界では、首相が各国を訪問するということがとても大事です。国会日程などの合間を縫って本当に多くの国を訪問されました。
僕がインドの日本大使館に勤務している3年間(2013年夏~2016年夏)も毎年首脳会談があったので、医療分野の日印協力、技能実習受け入れ、社会保障協定のスタートなど多くの進展を残せました。
担当の僕がどんなにがんばっても、首脳会談という節目がないと協力に向けた交渉にも本腰が入らずどうしてもだらだらと引き延ばされてしまいますが、首脳会談が決まると両国の官僚も様々な国との案件を抱えていますがプライオリティが上がります。
「それまでに会談の成果として打ち出すために交渉を終わらせなければならない」という共通認識ができるので、ものすごくスピードアップします。
政権が弱いと、野党が外遊に反対するのでかなり政治家の幹部が外国を訪問しにくくなります。また、外交は人間関係の継続も大事なので首相が短期で変わるより、ある程度同じトップが続けていた方が対話は進みます。
3. 説明責任
モリカケや桜を見る会など不祥事がらみのネタの追及への対応は、政治的に見ると余計な情報を出さず、スキを見せず鉄壁のディフェンスをとったように思います。
ただし、国民に対して十分説明責任を果たしたかというと全くそうではないと感じます。ここまで強気の姿勢に出られたのは、少々強引に追及を突っぱねても支持率が下がらない(野党の支持率が上がらない)という政治状況があったからと思います。
また、総理の答弁メモも山ほど作りましたが、安倍政権の国会での説明の基本的なフォーマットが、従質問者の意向を受けてスタンスを丁寧に説明するという従来のやり方から、大きく変わりました。
実績をアピールして、質問している方の指摘がおかしいんだということをハッキリ主張します。「指摘は当たらない」「あの3年3か月(民主党政権)はひどかったが、安倍政権になってからこれだけ経済がよくなっている」というのが基本フォーマットです。
4.意思決定について
内政が大きく動いたと書きましたが、世の中の雰囲気を重視して主要政策の意思決定権を官邸に集中したことで、あまり与党内や政府内の異論を挟ませることなく意思決定をしていきました。これができた理由は支持率が高かったことであり、その意思決定も常に支持率という要素を重視していたと思います。
政府に入っていない与党の議員からすると、自分たちの意見が政策に反映されるチャンスがかなり小さくなりますが、支持率が高い限りは次の選挙で国会議員は当選できる可能性が高いので、あまり文句を言えません。
一方で、少数の詳しくない人が世の中の雰囲気を見て決めるという政策形成モデルを確立したことで、大きく動くようになった一方で、「ちょっとこれ違うんじゃないか」という政策が決まったり、執行の実務をあまり考えずに無理なスケジュールでの意思決定も増えました(これは霞が関の働き方が過酷になった要因の一つ)。
5. 次に向けて
このように、よい面と改善してほしい面と両方があると感じますが、
■ 内政を大きく動かす
■ 外交を積極的に進める
■ 世の中の雰囲気をつかむ
という部分は過去の政権より進んだ点と思うので、これを維持しつつ、
■ 丁寧に説明責任を果たす
■ 政策決定プロセスに、詳しい人を入れる
■ 政策の実務と細部を重視する
という残った課題を改善し、政策が進化することを次の政権に期待したいと思います。
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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2020年9月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。