安倍首相が電撃退任会見を行った8月28日、「日本ウイグル協会」も厚労省で記者会見を開いていた。同協会によると、100万人とも300万人ともいわれるウイグル人が、中国当局によって収容所に強制的に連行され、強制労働をさせられている。今年3月に出されたオーストラリアのシンクタンクによる報告書では、パナソニックやソニー、日立製作所やユニクロといった、日本企業11社がその強制労働に関与しているのではないかと名指しされている。
ウイグル問題の改善に熱心だったという安倍首相の退任で、こうした日本経済にもかかわるウイグル問題の解決は遠のいてしまうのだろうか。
ウイグルで起きている強制収容、強制労働、日本国内での対応については前回の記事「『民族浄化』を黙認しないために。ウイグル問題で日本ができること」を参照いただきたい。
ウイグル人強制労働に日本企業が関与している?
28日の会見は、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ(HRN)」と共同で行われ、強制労働に関与していると名指しされた日本企業11社に送った公開質問状の回答などを発表した。
パナソニックからは回答がなく、ほか10社からは「調査をしたが、強制労働に関係する取引は確認されなかった」旨の回答が届いた。
HRNによると、新疆ウイグル自治区では、中国産コットンの80%以上が生産され、世界市場における生産量の20%を占めている。前出のオーストラリアのシンクタンクの報告書では、2017年から2019年の間に新疆ウイグル自治区の約80,000人が、世界的な有名ブランド83社のサプライチェーンで深刻な強制労働を強いられていると報告された。
企業活動のグローバル化で複雑になった製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの全体の「サプライチェーン」の流れの中で、一つの企業の「下請けの下請け」がウイグルの強制労働に関わっていないと証明するのは非常に困難だ。
企業や日本政府への提言
ウイグルで起きていることをひたすら隠そうと情報統制を行っている中国政府の監視下で、日本ウイグル協会のレテプ・アフメットさんは、現在もウイグルに住む家族とメールや電話の一本すら連絡が取れず、どこにいるかもわからない。
「強制労働の工場などで作られた部品が、直接ではないにしても、日本企業に渡っている。連絡が取れない家族が、強制労働の工場にいるかもしれない」と考え、「それが企業の金儲けになっていると思うと、悔しくて悔しくて、言葉になりません」と憤る。
そのうえで、「強制労働に加担しているリスクがあるのを認めたうえで、日本企業はサプライチェーンの見直しする一歩踏み込んだ対応が求められているのではないか」と訴える。
HRNの佐藤暁子事務次長は、「サプライチェーンすべての調査、報告をしていないこと自体、国際企業としてはグレーとみられる。調査報告体制が整っていない日本の状況に、実は企業が一番危機感を抱いているのではないか」とし、「企業の情報開示について国が積極的にリードしてほしい」と働きかける。
HRNは、このような企業への踏み込んだ対応とともに、日本政府に向けても「指導原則に基づくサプライチェーン上の強制労働を含む人権リスクに対応することを企業に求める法制度について検討を進めること」などを提言している。
ウイグル問題の改善に熱心だった安倍首相
日本ウイグル協会は、安倍首相が退任した翌日、「安倍総理へウイグル人からの感謝の言葉」とする声明を発表した。
それによると第1次安倍政権の2007年11月には、ウイグル人の「精神的な母」と慕われるラビア・カーディルさんが来日し、面会。ウイグル人の置かれている状況を熱心に聞いていたという。
2008年5月に、日本を訪れた胡錦濤国家主席(当時)に対しては、東京大学大学院在籍中に不当に拘束され獄中生活を送っていたウイグル人研究者トフティさんの件について、直接問題提起した。また、2012年4月の世界ウイグル会議日本大会開催時に、日本ウイグル国会議員連盟の設立準備会顧問としても尽力した。
第2次安倍政権期の2018年10月26日と2019年12月23日の習近平国家主席との会談でも、東トルキスタンの人権状況をめぐり透明性をもった説明をするようにと働きかけた。
また、2019年7月に、22カ国が強制連行の調査を求める共同声明書簡を国連に提出した際に、また、2019年10月に、国連の差別撤廃委員会で23カ国が恣意的な拘束をやめるよう求める共同声明を発表した際にも、欧米諸国以外で唯一、日本が共同声明に署名した。
同協会は、「これらはすべて安倍先生がウイグル問題の改善に熱心だった証として歴史にのこることでしょう。全てのウイグル人を代表し、改めて感謝申し上げます」と結んでいる。
今後生まれる新政権では、国内外で対応が求められるウイグル問題にどう対応するだろうか。その点においても、注目していきたい。