中央政界で、しばしば問題となるのが大臣人事である。表向きは「適材適所」といいつつ、総裁選挙で支援を受けた派閥には手厚く大臣ポストを分け与える「論功行賞」がおこなわれたりする。支持率が低迷しているときには小泉進次郎氏のように国民的人気が高い人物をサプライズ人事として抜擢することもある。
あるいは、まったくその分野・政策に通じていない素人が大臣になったりする。「素人大臣」は野党からの餌食になりやすい。民主党政権では「安全保障に関しては素人だが、これが本当のシビリアンコントロールだ」と、自ら「素人」と称したため強い非難を受けた防衛大臣も存在した。大臣を短期間で交代させる「たらい回し」も常態化している。こうした「素人大臣」や「たらい回し」には多くの国民が嫌気をさしている。
あまり知られていないが地方政界にも同様の問題がある。それが監査委員である。
監査委員には識見監査委員と議会選出監査委員(以下「議選監査委員」)の2種類がある。識見監査委員には弁護士、公認会計士、税理士、学者などが選任される。問題となるのは議選監査委員のほうである。
地方自治法では監査委員は首長が議会の同意を得て選任することとなっている。監査委員の定数は、都道府県および人口25万人以上の市では「4人」、それ以外の自治体は「2人」となっており、条例によって定数を増やすこともできる(逆に減らすことはできない)。
監査委員は自治体の財務や事業を監査する独任制の機関であるから、法律や会計についての専門的知見が必要となる。そのため上述したとおり識見監査委員には弁護士や公認会計士など専門家が選任される。
一方で議選監査委員は議長、副議長に次ぐ議会ポストとされる。議長、副議長、議選監査委員は「議会三役」といわれている。そのため多くの地方議会では、会派代表者会議など会派間での話し合いで議選監査委員を事実上決めている。
その話し合いも「うちの会派のA議員は当選4回だが、まだ監査委員をやっていない。A議員を監査委員にしてやってくれ」「議長、副議長ポストは他の会派にゆずるから、うちの会派から監査委員を出させてほしい」といった具合である。当選回数や大会派に入っていることが重視される。
「B議員は法学部卒で民間企業の経理畑にもいたので法律と会計に明るいので監査委員にしてはどうか」「C議員は税務署OBなので監査委員に適任だ」といった経験・能力・資格などはあまりに考慮されない。議選監査委員は実質はお気楽な「名誉職」となっているのが実態である。
地方自治法では議選監査委員の任期は「議員の任期による」とされているが、議長や副議長といった他の議会ポストと同様に、実際には慣例や申し合わせによって1年または2年交代となっている。1年任期だとすれば、業務全体の流れがわかってきたところで退任となる。これでは大臣と同様に「たらい回し」になっているといえる。
結局のところ議選監査委員の多くは専門的知見を有さない「素人監査委員」なのである。弁護士資格を持たない者が代理人として訴訟を遂行したり、医師免許を持たない者が患者を「診察」するのとさして変わらない。能力的担保が何もないことは非常に恐ろしいことである。
こうした現状から2017年の地方自治法改正により条例で定めることによって議選監査委員を廃止することが可能となった。議選監査委員の設置有無は各地方議会が判断することなったわけである。
それでは議選監査委員は廃止されるのかと問われると、廃止するのは困難である。実際に廃止された自治体は大阪府や大津市など一部の自治体にとどまっている。
なぜなら議選監査委員を廃止すれば議会ポストが1つ減るわけである。繰り返しになるが議選監査委員は議長、副議長に次ぐ議会ポストである。議選監査委員は、通常の議員報酬にプラスして監査委員としての報酬が上乗せされる。
そんな「おいしいポスト」を議会が自ら廃止するはずがない。私のように廃止を主張する議員が現れたとしても、他の議員たちは「集団的自衛権」を行使して阻止するであろう。議選監査委員は議会の「既得権益」なのである。
監査を受ける側である執行部から見ても、専門家による厳格な監査よりも「素人」による甘い監査のほうがうれしいに決まっている。
経験・能力・資格など一切不問の「素人監査委員」は無用の長物である。地方議会の「既得権益」を打破するためには、国会で地方自治法を改正して、強制的に議選監査委員を廃止するべきである。
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芦田 祐介 京都府久御山町議会議員(地域政党京都久御山党)
1983年生まれ、同町議会最年少議員