文科省に対する3つの代案:学校現場からの部活動改革

和田 慎市

前回の投稿では、中学・高校の休日部活指導を学校管理下から外し、地域活動に移すという文科省案について苦言を呈しました。

文科省の“部活指導軽減案”は元の木阿弥にならないか?

部活動は多少地域差があるものの、これまで学校教育において人格形成等の人間教育、心身の健康増進の中心的役割を担ってきました。

学校(特に高校)の授業が、出口指導(受験指導等)を意識した知識の詰め込みや解法のテクニックに偏りがちな傾向がみられる中、学校教育から一律に部活動を除外すれば、授業が成り立たない、生活指導・人間教育ができない等の学校が、一定割合出現することが予想されます。

こうした現状を踏まえ、教員の一人として既存の部活動を何らかの形で生かせるような改革案(3案)を提言したいと思います。

Nago-mi/写真AC

A案 基本的に既存の部活動の形態を維持しながら教員の負担軽減を図る

付帯条件として、

  • 部活動を正式な教育課程(学校活動)の中に位置付け、部活指導は正式な職務とする
  • ①により平日の勤務時間外指導や休日指導に対し規定の残業手当を支給する
  • ②との兼ね合いで現行給特法を廃止する
  • 残業代の無制限拡大を防ぐため、(平日,休日の)部活指導時間に上限を定める
  • 休日部活指導をした教員の振替休日(平日)取得を容易にする
  • 増えすぎた各種大会の数を減らす(精選する)
  • 競技未経験の顧問をフォローできる体制(サポート教員の配置等)を整える

※ ポイント

あ.法改正(給特法廃止、部活指導の正式な職務化)を迅速に行えるか?
い.膨大な残業手当の財源を確保できるか?
う.⑤達成のため、短期間で教員の大幅増員ができるか?
え.増加する各種大会の公平な精選(絞り込み)基準を作れるか?

B案 従来の部活動を限定的に維持しながら(同好会的)クラブ活動を学校教育に組み入れる

付帯条件として、

A案の①~⑥は同じ

  • 各学校で看板になりうる1~3個程度の部活[運動部に限らない]を選択し、従来の部活動の形態で行う
  • ⑧の看板部活競技が同一学区内で偏らないように、なるべく学校間で調整して競技のすみ分けをはかり、学校ごとの個性を明確化する
  • ⑧以外の部活はクラブ活動(週1~3回程度)に移行し、原則勤務時間内の活動とする

(*クラブ活動で対外試合を行う場合、近隣のリーグ戦や交流試合にとどめ県大会や全国大会は行わない)

☆ 部活動・クラブ活動を必修科目[1単位]に組み込む方法もありうる

※ ポイント

A案(あ~え)とほぼ同じだが、部活数・顧問人数はかなり減るため、い.の残業代総額はA案よりかなり少なくなり、う.の増員数もA案ほどの必要はない。

お.部活顧問とクラブ顧問の待遇・勤務条件の差異をどうするか?
か.部活指導の比重低下が学校の生徒指導力、人間教育力低下を招かないか?

C案 現在の部活動の形態を廃止し、学校は(同好会的)クラブ活動(週1~3回)に移行し、高度のスキル習得・目標を目指す生徒は校外のクラブに参加する

付帯条件として、

A案の②・③・⑤、B案の⑩は同じ

  • 校内クラブ活動を生涯スポーツ(学習)の一環として位置付け、子供たちのスポーツ、芸術、研究等への興味・関心を高めさせる
  • 本格的アスリート指導を希望する教員は校外のクラブ指導者に登録して行える

※ ポイント

き.これまで主に部活動が担ってきた人間教育、生徒指導等をクラブ活動でカバーできるか?
く.特に教育困難校や荒れている学校では授業が成立するのか?
け.部活動の除外をいいことに給特法廃止が見送られ、サービス残業(既存の部活指導以外の仕事)が野放しにならないか?

まだまだ粗削りな案であり、大会の運営や公式試合の扱いなど他にクリアすべき課題も山積みですが、個人的には魅力ある授業(真の知識・教養の習得)の実践と充実した生徒指導体制を条件に、B案を推したいと思います。看板部活はスポーツだけに限らず、芸術、福祉、IT、学術研究など幅広い分野を対象とします。

例えば校長が勤務校に腰を据えて(5年以上?)得意な、あるいは思い入れのある分野(スポーツ他)に注力すれば学校の特色も明確になり、積極的に希望受験する生徒が多くなるかもしれません。

また、校内クラブ活動についてもかなりの幅を持たせ、大学のゼミのように教員に得意な分野(音楽、旅行、アニメなど趣味でもよい)を担当させれば、教員も生き生きと指導ができますし、生徒の興味関心も増すはずです。ひょっとしたらその中から学校の看板クラブ・部活動が生まれるかもしれません。

ただ筆者の案に限らず、どの方法をとるにしても、学校教育における知識・教養の習得、人格形成、心身の健康増進の必要性を再考し、部活動を学校教育から除外した場合、具体的にそれらをどのように実践するのか、事前にシミュレーションしておく必要があります。

シミュレーションの結果、例えば学校教育の柱が人間教育であり、それを担ってきた部活指導にとって代われるものがなければ、部活動を原則維持するA案に類するものを選択する必要性は増すでしょう。

いずれにしても最も大切なことは、この先教員が安心してゆとりをもって部活(クラブ)指導に取り組める環境を整えることであり、その精神的余裕が子供たちの人間形成・成長にもプラスの影響をもたらすはずです。

そして、どんな部活動改革を行うにしても「給特法の廃止(残業手当の支給)、職務への明確な位置づけ、教員の増員」が、成功の大きなカギになることは間違いないでしょう。