英国はなぜ日本をファイブアイズに誘うのか 〜 歴史的視点から

高橋 克己

英保守党公式サイトから

日々見えない重しを背負ようなコロナ禍だが、ジョンソン首相が16日に示した下記の日本のファイブアイズ(以下FVEY参加への誘いは、筆者の心を弾ませる。早々にトランプやモリソン豪首相と電話会談を行った総理には、ジョンソンに前向きな姿勢を伝えて欲しい

日本とは素晴らしい関係があり、非常に緊密な防衛及び安全保障のパートナーシップを築いている。日本のFVEY加盟はそれさらに発展させるための非常に生産的な方法になるかもしれない英国が、志を同じくする民主主義国家を一つにまとめる大きな機会であることには違いない。(17日AFP

英国は、EU離脱にして積み残した北アイルランドの関税問題で苦境にあるが、日本は先般FTA(自由貿易協定)を結んでジョンソン政権と同じ船に乗った。こ機に日英の同盟関係が復活するなら、それは1902年1月(~23年8月)の日英同盟以来一世紀年振りのこと。

日英同盟

その日英同盟の濫觴(らんしょう)は、1900年の北清事変(義和団の乱)

義和団の兵士(Wikipedia:編集部)

アヘン戦争に敗れた清にはキリスト教宣教師が押し寄せ、一般民衆と信者の間に摩擦が生じていた。布教に反対する一山東省の義和団は宗教的性格と武術とで次第に勢力を増し、扶清滅洋を掲げて北京に迫った。すると西太后までが肩入れし、列強に宣戦布告するに至る。

義和団と西太后は、到着した列強8ヵ国の援軍に敗れ(9月)、義和団は消滅西太后は西安に逃げるが、援軍到着までの55日間、約千の外国人と中国人キリスト教徒数千が在外公館地域に立て籠もった。各国の兵士と民間義勇兵は5百に満たなかった。

5百を指揮したのが柴五郎中佐だ。中心英国公使マクドナルドだが、有能な柴は押し出されるように寄合い所帯の籠城軍を統率した。日本兵は民間人義勇兵も含め軍紀厳しく勇敢だったので、犠牲者も多く出した(「北京燃ゆ」ウッドハウス暎子)。

その様子は、英国タイムズの豪州人記者モリソンが、現地から本社に通信した記事世界に配信された。これにより国際社会、とりわけ英国は、日本の優れた国民性を通してその国柄を知るに至り、それが1902年1月の日英同盟に結び付いた。

日露戦争と英米のユダヤ財閥

日清戦争に勝って日本が清から得た遼東半島を、露仏独三国干渉によって放棄させた。3年後の1898年3月、ロシアは旅順港大連湾租借、遼東半島まで鉄道を伸ばしたドイツも97年、宣教師殺害を口実に膠州湾を占領、山東半島支配に乗り出した。

ロシア南下は三国干渉に臥薪嘗胆を誓日本やっとの冊封から独立させた朝鮮の脅威04年2月6日、小村外相はロシア公使国交断絶を宣言し、2日、日本は旅順口攻撃した。不凍港を求めるロシアの極東進出を歓迎しない海洋国英米が日本を支援するのは必然だ

当時のロシアに世界のユダヤ人の半数約520万人が住んでいたが、2百万弱が迫害(ポグロムを逃れて1914年までに外国に移住、その約8割が米国に向かった昨今のエルサレムの首都認知やUAEなどとの国交回復仲介は米国とイスラエルとの強い絆を象徴する。

ジェイコブ・シフ(Wikipedia:編集部)

当時のユダヤ系米国人のリーダージェイコブ・シフがいた。独フランクフルト生まれのシフは18歳で渡米し帰化した。シフ家は一棟の住居をロスチャイルド家と共有する旧家後にシフは米国でクーンロープ財閥の総帥となり、ロスチャイルド家も英国で大財閥を成した(「ジェイコブ・H・シフと日露戦争二村宮國)。

日露戦争戦費調達にユダヤ財閥が一役買ったが、そ苦心譚は「高橋是清自伝」(中公文庫)に詳しい。83歳で二・二六事件の凶弾に倒れた破天荒な傑物の自伝は興味津々だで高橋は、偶然ある晩餐会ニューヨークのクーン・ロブ商会首席代表ジェイコブ・シフを紹介されたと書いている。

が、二村はシフが1904年2月に「72時間以内に日本とロシアは開戦する。私は日本への資金協力を実行すべきかどうか検討している。計画を実行に移した場合、ロシア国内のユダヤ人にどのような影響を及ぼすか、皆さんの判断を伺いたい」とユダヤ系米国人仲間に述べことを挙げ、シフが高橋に接近したことを示唆る。

シフの米国の他にも、英国はユダヤ系英国人でロンドンの有力なシフの親友アーネスト・カッセルパース銀行ロンドン支店のアレクサンダー・シャンド、そしてロスチャイルド家は在仏の一族が、それぞれ高橋の起債に協力した。

シフは結局、1904年5月から翌年11月まで5回の起債に参加合計額は1億9600万ドルに上る。自伝の記述(鰻重25銭)から現在の金額を推すと1万倍の数字になる。いずれにしても相当な巨額であることは間違いない。

高橋は、シフの動機がロシアで迫害されるユダヤ人の救済や日本の勝利がロシア政治に変革を及ぼし得ることなどにあると書く。経済的動機抜きに引き受けたはずはないが、シフの1906年2月末から3カ月に及ぶ日本訪問記(「日露戦争に投資した男」田畑則重)を読むと損得だけでない一面も垣間見える。

かつて米国で一世を風靡し、後にリーマンブラザーズと合弁して消滅したクーロープ商会の戦前の共同経営者ルイス・ストーズこそ、1941年1月に日米交渉来日したウォルシュ司教とトラウト神父に紹介状を託した人物だった。が、このは別稿に譲る。

FVEY

前置きが長くなったがFVEY。それは英米が冷戦初期の1946年に結んだ「通信諜報協定(UKUSA)」に、48年にカナダ、56年にオーストラリアとニュージーランドを加えた諜報ネットワークだ。その存在は60秘密にされた(参照「The Guardian」記事

2011年に公開された、1946年締結のUKUSA協定書表紙(Wikipedia:編集部)

5か国は、通信文書機器の取得海外通信の傍受、解読、翻訳を含む業務から得た情報を交換する。存在を永年秘密にされたことはヴェノナ(対ソ暗号傍受作戦)通じるが主たる対象がかつてのソ連から共産中国にシフトした点が今日的

百年前に英米のユダヤ財閥損得勘定と同胞迫害への怒りの二人連れで、両国政府同意の下ロシアと戦う日本(と戦況を左右したロシア革命)肩入れした。彼らがロシア革命や日露戦争を起こさせたかどうかまでは定かでないが、経済面で支援したことは歴史的事実だ。

そして今日、共産中国ロシアポグロムを彷彿させる人権蹂躙や今般のコロナ禍初期の情報隠蔽医療資材買い占め世界中を苦しめる。また韜光養晦を隠れ蓑にした技術盗取や補助金で不当に肥大化させた経済力を武器に覇権主義を蔓延らせ、国際社会から厳しく糾弾されいる。

その先頭に立っているのはデカップリングを宣言したトランプの米国、自らコロナに罹って覚醒したジョンソンの英国、長年の中国漬けから脱却を図るモリソンの豪州、そしてファーウェイの孟晩舟拘束の煽りで中国に自国民を拉致されているカナダなどのFVEYだ。

最後にジョンソンが日本をFVEYに誘う理由だが、一つは日本ほど契約(約束)を守る国は他にないからではあるまいか。英米ユダヤ社会の基本は神との契約だ。宗教を否定する共産主義で、かつ契約を守らない中国は根本的に相容れない。日本はジョンソンの誘いを受けるべきだ。