世田谷モデルは「4億使ってみよっか」という緩い判断で可決されるのか

高橋 富人

私の地元である千葉県佐倉市でこのような問題が発生したらたまったものではないので、議員の立場で、いわゆる「世田谷モデル」について意見させていただきます。

世田谷モデルは保坂区長の「単なるパフォーマンス」

世田谷区・保坂区長(区YouTubeより)

保坂区長がぶちあげた、「誰でもどこでも何度でも検査を受けられる」PCR検査、という標語政治は、すでに言葉的にも嘘になっているうえ、保坂区長の体面を保つためだけに役人が奔走し、もはや「何がやりたいのかわからない」ことのために4億円を使ってみる、という政策に堕してしまっています。

予算というものは当然、無尽蔵にあるものではありません。

そんな中、「プール方式が採用できないから、PCR検査の結果を出すのは相当遅れちゃうよ」とか、「医師会だけど、私たちは、世田谷方式とは関係ないかんね(参考:報道されております「世田谷モデル」について)」とか、「世田谷区の担当者だけど、費用が全額区の持ち出しとなれば、定期的な検査はたぶん無理だよ」とか、「コロナ陽性者がたくさん見つかった場合、病床数の検討が不十分だよ」とか、そういう「それじゃやっちゃダメでしょ」という意見がほぼ出そろっているにもかかわらず、「でも、4億使ってみよっか、とりあえず」という議会の結論になりそうだと。もう、涙無くしては語れない状態です。

私は、そもそも世田谷モデルには反対です。実施される政策の立案には

  • 予算の確保
  • 実現性の確保(プール方式の実現性、政府方針の見極め、医師会など重要な関係機関などとの調整も含む)

とあわせ、そもそも「それをやることが有効であることの確証」を、現状の事態と将来の見通しの正確な把握のもとに、冷静に判断する必要があります。もちろん、政治主導で方向性を示すことはありますが、今回のように極めて具体的な政策を実現しようとする場合には、よほどの確証がなくてはいけません。

議会でさんざん叩かれて、それらの何もかもが見切り発車であることが露呈し、そもそも「現状の体制の中でそれやっちゃダメでしょ」となったわけですから、通常であれば「議会で否決」となるのが当然の結末です。

しかし、なぜか「世田谷モデル」を含む予算案が、9月28日の世田谷区議会で可決されようとしています。なぜでしょうか?

予算案成否のカギを握る自民党の見解

世田谷区議会サイト:編集部

「世田谷モデル」を含む予算案に賛成しようとしている自民党区議の委員会での発言を、9月20日に公開されたアゴラの新田編集長の記事をもとに追ってみます。

当該自民党区議は、いわゆる「世田谷モデル」について

  • (予算案の提出の遅れなどの執行部側の慌ただしい対応について)「進め方にはいまだ大きな不信感を持って」おり
  • 「結局は掲げた理想とは程遠い事業案が提案されるに至ったと認識」

しています。さらに

  • 「本当に福祉施設で働く方々の不安解消につながるのかいまだ疑わしい部分は残っていると認識」

してすらいます。ここまでは、きわめて常識的な判断をしていると考えます。

しかし、結論の部分では、上記認識とは真逆の判断となっていることに驚かされます。

  • 「新型コロナウィルス感染症の対策として止めてはいけない事業が多くを占める本補正予算案に賛成」

上記を要約すると、「世田谷モデルはまったく噴飯物の議案だけど、その他もろもろの予算を止めるわけにはいかないから、世田谷モデルに4億円使ってもいいよ」と言っているわけです。民間の取締役会を想像してください。上記のような判断をする役員など、いるでしょうか?

では、この自民党の区議が言う通り、いわゆる「世田谷モデル」を止めると、本当に「予算全部」が止まってしまうのでしょうか?

事実はそうではありません。議会には地方自治法に認められた「個別議案の修正権」があります。稗島議員をはじめとする会派(維新=F行革・世田谷行革110番・無所属)は、その権利を使い『今回の予算案は通すけど、いわゆる「世田谷モデル」の4億円についてだけは、いったん世田谷区の「まさかのときの貯金箱」である財政調整基金に戻して、冷静になろう』と呼びかけているのです。私には、極めて冷静な判断にみえます。

しかし、この組み替え動議には、自民、公明、立憲民主党社民党、setagayaあらた、都民ファースト、無所属が反対をし、否決されました。(参考:たった1人の反乱…区議会は“世田谷モデル”に屈す — 稗島 進

今回の問題は、まさにこの部分です。

いわゆる「世田谷モデル」に反対ならば、この議案だけ白紙に戻せばよい。自民党議員の前半の発言を追う限り、その判断が最も合理的であるはずです。

にもかかわらず、なぜか「世田谷モデル」に賛成してしまう。その理由として考えられるのは

  1. やっぱり世田谷モデル、いいモデルじゃん、と考え直した
  2. 「敵対する会派」の動議には賛成したくない
  3. 賛成して区長に恩を売っておこう

あたりかと思います。

もし「2.」や「3.」ならば、それは理念より政局を優先させた判断であるため、世田谷区民の代表たりえません。政治家をお辞めになるべきでしょう。

まさかそのような愚かな判断を、選良である区議会議員がするはずなどないでしょうから、先の修正動議に反対されている世田谷区議会議員の皆さまは、「やっぱり世田谷モデル、いいモデルじゃん。4億円の価値はあるよ」とお考えになったのでしょう。

だとするならば、その理由をしっかり討論で表明しなければなりません。それができないようであれば、やはり政治家をお辞めになるべきです。

本件について、28日の本会議の討論と議決結果に注目しましょう。