安倍総理の退任表明から1か月が過ぎました。自民党総裁選へと突入し、目まぐるしい日々が続いてきましたが、菅義偉新総理・総裁の下、新体制がスタートしました。
日経新聞の世論調査では、新政権への支持率が74%!ほかの新聞社でも同様の傾向で、国民の皆様から大変なご期待をいただいています。安倍政権を継承しつつ、コロナ禍の苦境から脱するために、私も与党の一員として気を引き締めてがんばります。
縦割り行政を打破し、悪しき前例主義をぶち壊す。そしてコロナ禍で浮き彫りになったデジタル化の必要性とサプライチェーンの見直し――。
菅総理が総裁選の最中から訴えてこられたことは、私もまさに国会で、街頭演説で、コラムで、ずっと言い続けてきました。とくに縦割りの問題は、日本が時代の変化についていけない構造的な問題となっています。菅総理はダム行政の見直しを引き合いに出されていますが、霞ヶ関中にその事例があり、例えば子育てに関する問題もそうです(下記図参照)。
これは拙著『ノックととおるのはざまで』(ワニブックス)でも申し上げましたが、今の日本では、せっかく生まれてきた子どもたちが大人になるまで、「果たして健全に育つのだろうか」という不安がつきまといます。
たとえば赤ちゃんの定期検診の時に、虐待されていないか、ちゃんと育てられているか、診ようと思えば可能なはずです。でも縦割りになると、小児科医は小児科の範囲を越えられず、保健師さんは保健師さんとしてしか子どもを見ない。
もちろん、それぞれの専門領域で高い技能を持っておられるわけですが、縦割りの矩(のり)をこえない暗黙の了解があるのです。これは極端な例かもしれませんが、虐待の兆候があっても、病気でなければ「熱もなく順調に育っていますね」と見逃される可能性もないとは言い切れません。
ここ数年、注目されたフィンランドの「ネウボラ」という制度は、そうした問題を打開するための先例でした。これは妊娠期から出産、子どもの就学前までの間、母子とその家族に寄り添いながら、小児科医と保健師、心理士などが連携を取り合い、原則一人の子供をずっとケアし続けるシステムです。
そして日本でも、2014年に「日本版ネウボラ」として「子育て世代包括支援センター」(名称がカタイ!)の取り組みが段階的にはじまりました。自治体独自の取組みを国が支援するもので、2015年の閣議決定に基づき、2020年度末までの全国展開をめざしています。
センターでは、母子保健コーディネーターが産前・産後をケアし、お母さんたちの悩みや不安解消にもつとめています。自治体によっては子育てサロンや戸別訪問なども行うところがあり、コロナ禍で人との交流が途絶えた今、センターの役割はますます重要になっているといえるでしょう。
ただし、本場の「ネウボラ」に比べると、我が国の「子育て世代包括支援センター」はまだまだ体制が弱いのも事実。各地で痛ましい虐待死の事件がいまでも起きていることからしても、児童相談所との連携強化など予算と体制をさらに手厚くしていかねばなりません。
子育て以外でも、医療、介護、福祉分野では、ほかにも縦割りの弊害は多く指摘されています。厚生労働省分割の議論も出てきていますが、仕事量が増えている要因には、縦割りの中に安住するうちに重複部分も広がってしまい、「課あって局なし、局あって省なし」の状態になっていることも否めません。
菅総理が陣頭指揮に立ち「縦割り打破」を掲げられたことで、問題意識が社会全体に急速に共有されていることは心強く思います。一方で、この熱量が冷めないうちに、問題解決に向かって前に進めなければなりません。私も国会質疑や役所との意見交換などを通じて、しっかりと取り組みたいと思いますが、相当時間がかかりそうだという危惧も持っています。