硬いタイトルで申し訳ないです。日米豪印戦略対話(略称QUAD、クアッド)が対面方式で日本で開催されました。特にアメリカからはポンペオ国務長官が予定を変更し日本だけに訪れた意味は菅総理への表敬訪問的意味合いとアメリカ政権交代を前提にしたQUADの下地固めがあったと思われます。そのため、総理とポンペオ国務長官は二度会合する形となり、トランプ大統領の名代として強力な日米関係の継続を確認したものと考えます。
まず、このQUADですが、別名アジア版NATOとも呼ばれ、中国が主導する「上海協力機構」に対抗するものともされます。また、将来的には参加国が増える可能性もあり、中期的には防衛戦略という点で目が離せない集まりです。
表向きは中国を意識したものではないとされますが、その言葉通りに受け止めている人は少ないでしょう。事実、中国の王毅外相が今月、日本に来ることになっています。まさか王毅外相が習近平氏の名代ということはないと思いますのであくまでも日中の外交に的を絞った会談になるはずですが、当然ながらQUADの内容を確認することも含まれているでしょう。
このひと月、日本の首相が代わり、アメリカの大統領選が間近に迫る中、私は東アジアの色が少し変わってきたように感じています。一言でいうと「落ち着いてきて緊張感が和らいだ」ように見えます。
その要因の一つが中国のコロナ対策が比較的うまく機能しており、経済の回復が想定より上向きである点です。そろそろ7-9月のGDPが各国、意識される頃ですが、発表が早い中国は専門家の予想で5.2%程度になると日経が報じています。4-6月が3.2%でしたので力強い回復で特に内需が伸びているようです。また中国の国慶節の連休は海外旅行に出られない中国人が国内各地にあふれていた報道は目にされた方も多いと思いますが、そもそもコロナが表面上完全に抑え込まれている点が人々の動きをより活性化しているものと思われます。
ちなみに中国のコロナの現状は一日の新規感染者数が20人台程度で安定しています。中国発のコロナでありますが、湖北省にほぼすべてが集中しているといってよく、奇妙なほどよくコントロールされているのであります。まるでコロナウイルスも共産党員で統制が取れているのではないかと勘繰りたくなります。
いずれにせよ、データを見る限り中国の現状は最悪期を抜けて回復基調をたどっています。アメリカとの問題は山積していますが、一部については先々、中国が巻き返す可能性はあると思います。大統領選挙の結果が出るまでは何も起きないはずですが、バイデン氏が大統領になった場合、トランプ氏のような対中戦略はあり得ないとみています。(選挙戦では対中強硬路線を維持するようなことをいっていますが、そもそも彼はそんな思想も過激さも持ち合わせていません。)
では日中関係ですが、双方、外交戦略の出方を見守っているように感じます。そもそもコロナ禍で外交バトルをしている余裕があまりなく菅総理が安倍元首相のような思想的色付けもなく中国には読みにくいというのが本音でしょう。安倍氏はデビュー後、靖国訪問で中韓を刺激して安倍氏の立ち位置を明白にしたこととの比較という意味です。お手並み拝見というところなのでしょう。だから王毅外相がやってくるとも言えます。
さて、地団駄を踏んでいるのが韓国。韓国紙にはポンペオ氏も王毅氏も来ないといったトーンの記事が出ていますが、いわゆる外交スルー現象(Korea Passing)が起きているとみています。理由は明白で文政権のポリシーが朴槿恵政権と全く同様、中国アメリカ両股天秤外交であるからです。同国の両股天秤外交は歴史的に当たり前のように存在し、その中心は日本と中国との両股天秤でした。数多くの朝鮮半島の歴史的事変のトリガーはその両股に背景がありました。今、その天秤が日本ではなく、アメリカに移ったというだけの話でアメリカはもちろん気が付いています。ならば、大統領選を控える中、今は韓国訪問は得策ではないと考えたとみています。
また北朝鮮も自国の立て直しに精いっぱいに見受けられます。台風9号が思ったより北朝鮮に甚大な被害をもたらしたこともあり、金正恩委員長もロケットを飛ばしている場合ではないことはありありとわかります。先日の北朝鮮軍の韓国人射殺事件は日本であまり報じられませんが、かなり不思議な事件で確実に裏があるはずですが、もっとも奇妙だったのは金正恩委員長が謝罪したことであります。これは異例中の異例の事態であり、外交が優先していないことを明示しています。
そのあたりから概括するとポンペオ国務長官が韓国訪問を延期したのも王毅外相が韓国訪問計画を白紙撤回しているのも朝鮮半島が今の主たるテーマではないということを裏付けています。言い換えれば周りを固める方が先で朝鮮半島は一番最後ということに見えます。
そもそもアメリカは大統領選、欧州はコロナが再び襲来、中東は原油価格の低迷とイスラエル、イランをめぐる外交の天秤があり、東アジアだけが比較的平穏で回復基調という状況です。個人的には今年いっぱい、大きな外交展開はないとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年10月7日の記事より転載させていただきました。