アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司
今年8月26日、中国の内モンゴル自治区では、当局が小学校1年生の小学新国語教科書で使用する言語をモンゴル語から標準中国語(以下、「普通話」)へ替えると通知した。
この新政策に対し、モンゴル族住民が反発した。8月下旬、通遼市、オルドス市、フフホト市などで、モンゴル族の家長や生徒が相次いで「不服従運動」を展開したのである。また、生徒らは授業をボイコットし、抗議デモを行った。
デモ隊は高らかにモンゴル語の歌を歌い、「私達の言語はモンゴル語で、永遠の故郷はモンゴルである。我々の母語はモンゴル語で、母親のために死ぬまでそれを変えない」と主張した。特別警察や公安はデモ参加者の拘束し、弾圧を強めている。
実は、内モンゴル同様、今秋、北京政府は東北3省(遼寧省・吉林省・黒龍江省)の朝鮮族小中学校でも、「普通話」教育を強制している。
他方、チベット自治区では、2008年3月のチベット騒乱以降、中国共産党は、チベット人学校における教育言語をチベット語から「普通話」に変更する方針を打ち出した。
2010年10月、中国西部の青海省では、チベット人の中高校生数千人が、学校で「普通話」だけ教えるという報道に接して抗議している。その後、当局は、チベット自治区で、学校でのチベット語を制限し、「普通話」を強制した。
『ニューヨークタイムズ中文網』「チベット語を保存するため、中国のチベット人は強く抵抗」(2015年11月30日付)の記事によれば、当時のチベットは、すでに次のような状況になっていたという。
チベット高原では、チベット語を学ぶところがない。当局は、他の寺院と同地区の私立学校にも、俗家の子弟にチベット語を教えてはならないと命じた。公立学校は以前から本格的な「普通話」とチベット語のバイリンガル教育を放棄している。したがって、チベット語は教えられていても、外国語と同じような科目にすぎない、と。
一方、2002年、中国共産党は新疆・ウイグル自治区ウルムチ市にある新疆大学でのウイグル語での授業を禁止した。その後、2017年9月頃から、新疆ウイグル自治区ホータン地区での学校でウイグル語の使用を全面的に禁止したのである。
例えば、「ホータン地区の言語教育に関する5つの規制」では、小学校から「普通話」を普及させ、「普通話」教師に対するウイグル語研修も禁じられた。また、当局はウイグル語のスローガンや写真単独での使用禁止、集団公共活動等でのウイグル語使用禁止などを求めた。
他方、当局は「ホータン地区幼稚園教師に対する8つの規律」を通達した。幼稚園では宗教教育が禁止され、宗教的交流も禁じられた。教えるに際し「普通話」が使用され、教師の宗教的衣服(ヒジャブ)着用や髭をはやす事が禁止された。
これら規制は、同自治区のホータン地区から始まり、自治区全体へ拡大して行ったのである。
更に、同年10月、新疆ウイグル自治区イリ・カザフ自治州伊寧市(グルジャ市)教育部は「少数民族言語教材の選定業務に関する通達」で、自治区内のウイグル語、カザフ語の教材はすべて使用を終了し、学校にある既存の教材はすべて封印することを求めた。
また、その通達には、少数民族言語の国定教材「道徳と法の支配」「歴史」に関して、翻訳作業が未完成なので、これらの教材使用を終了すること、関連分野の少数民族言語の教材は使用を中止すること、などが記載されていた。それ以降、この政策は同自治区全体へ拡大している。
今年9月25、26日、新疆ウイグル自治区の統治政策を協議する「中央新疆工作座談会」が開催された。そこで、習近平主席は、同地の統治政策の妥当性をアピールし、ウイグル族に対する「同化政策」強化を指示した。「大漢族主義」の表れである。
習近平政権による少数民族「同化政策」は、モンゴル族・朝鮮族・チベット族・ウイグル族等にだけに行われているのではない。
今年7月1日から、香港では「国家安全維持法」が施行され、同地が「1国2制度」から「1国1制度」へと変貌しつつある。その香港にも「同化政策」が適用された。
「近代化」された香港人は、中国国内の少数民族とは異なる。れっきとした漢民族である。しかし、習近平政権は、香港政府や中央政府に反抗する香港人を、少数民族同様、容赦なく暴力で鎮圧するようになった。
結局、習政権は、「文化大革命」ならぬ「文化小革命」(ないしは「第2文革」)を遂行していると言っても過言ではない。その上、習主席の「文革」は、周辺国のみならず、世界中に“前近代”的な「中国的価値観」を押し付けようとしている。
澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。元拓殖大学海外事情研究所教授。専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2020年10月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。