菅内閣の「口に出したことはやる」有言実行ぶりが、ここでも発揮された。
在独韓国市民団体の「コリア協議会」が先月28日にベルリン市ミッテ区に設置した慰安婦像と碑文の件で、加藤官房長官が翌29日の定例会見で「撤去に向けて様々な関係者にアプローチ」すると述べていたところ、ベルリン市が現地時間7日、その撤去を命じたのだ。14日までに撤去しない場合、市当局が強制撤去し、コリア協議会に費用を請求するとの厳しい命令だ。
韓国紙ハンギョレは先月30日*、「ヨーロッパ第1号」の少女像の碑文が撤去されるなど、像建設の度に日本政府の抗議が強かったにも拘らず、ベルリン市の「公共敷地に少女像が建てられたのは、地域団体と女性団体が連帯の意に共感したため」などと嬉々として報じていた。が、それらは一週間であえなく撤去の運びとなる。
その碑文には「第二次大戦当時、日本軍がアジア太平洋全域で女性を性的奴隷として強制的に連れて行った」と書かれている。ミッテ区は「事前通知もなく碑文を設置し、ドイツと日本の関係に緊張が造成されたこと」を理由に挙げ、「ミッテ区が韓国と日本の間に対立を起こし、日本に反対する印象を与える」として、「一方的な公共場所の道具化を拒否する」と説明したという(9日のハンギョレ)。
外務省は2日深夜のプレスリリースで、欧州歴訪中の茂木外相が1日、自宅隔離のため今回訪問できなかったドイツのマース外相の求めに応じてテレビ会談を行い、コロナ対策や入国規制の緩和、二国間関係に係る諸課題、そして先般ドイツ政府が発表したインド太平洋ガイドラインに絡めた国際情勢や地域情勢について意見交換を行ったことを伝えていた。
ここではおくびにも出さなかったものの、茂木外相はマース外相に対してベルリン市の慰安婦像撤去をしっかりと要請していたということだ。茂木外相は6日の記者会見では、韓国で最もよく見られているというニュース専門テレビ「YTN」の記者の質問に次のように答えている。
(YTN記者)ドイツ・ベルリンに設置されている、慰安婦像に関しましてお伺いします。先日行われたドイツ外相とのテレビ会議で、慰安婦像の撤去に向けての協力の要請の事実はあったのでしょうか。もしあったとしたら、民間団体の活動に日本政府が圧力をかけるようなことになるんですけれども、この点に関しまして、どんなご意見をお持ちでしょうか。
(茂木外相)本件について、やり取りはありました。ベルリンという街、東西分裂から、一つのベルリンというのが生まれると、様々な人、それが行き交う、そして共存する街、それが私(大臣)はベルリンであると、そんなふうに考えております。そのベルリンの街に、そういった像が置かれることは適切ではないと、そのように考えております。
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ベルリン市が撤去を命じた背景には、設置者がいくつか虚言を弄して許可を得たこともあるようだ。ハンギョレの別記事は「今回設置された少女像は、ベルリン地方自治体に芸術作品として設置申請を出し…許可を受けた」と報じている。だのに像の隣には碑文も設置された。同区が「事前通知もなく碑文を設置し…」とコメントした背景には「コリア協議会」のこの虚偽申請がある。
慰安婦像を芸術作品に擬(なぞら)える辺りは、目下知事がリコール運動に晒されている「あいちトリエンナーレ」と同じ構図だ。まして、百歩譲っても、嘘八百の碑文など芸術作品ではありえない。そうなのだ。世界各地の慰安婦像の悪質極まるところは、むしろ碑文の文言の飛んでもない「嘘」にある。像だけならば誰も気に留めまい。
筆者は18年8月、その月の14日に台湾台南市の目抜き通り、林百貨店(日本統治期の建物が当時のまま使われている観光名所)前に設置された慰安婦像を見分すべく渡台した。何を見分するかといえば北京語、英語、そして日本語で書かれた碑文の内容だ。全文は昨年2月の拙稿をお読み願うとして、ポイント部分にはこうあった。
(日本軍は南京で30万の住民を殺戮やレイプし…)その後、アジア太平洋各地で「慰安所」を設立し、騙しや脅迫、拉致などの方式で、占領区の若い女性を「慰安婦」として強制徴用して日本軍の姦淫に供し、被害された女性は約20万ないし40万人に上るといわれ、台湾も少なくとも1200人が被害されているという。
9日の産経は、コリア協議会が韓国系の市民団体であることに加え、業務上横領など8件について起訴されている尹美香議員が代表だった「正義連」が製作費を支援したことを報じている。像の設置をハンギョレが「地域団体と女性団体が連帯の意に共感したため」などとしているのが飛んだ眉唾と知れる。
ドイツではこれまで、「ヨーロッパ第1号」(ヴィーゼント市の私有地)の碑文と、ラベンスブリュック記念館(ナチスによって主に女性の囚人が収容されていた)のミニュチア少女像が撤去された。そもそもこの国にはホロコーストの原罪があり、また第一次大戦で部隊を組めないほど軍に蔓延した性病を防ぐために慰安婦制度を考え出した国柄でもある。本物の市民は眉を顰めているのではあるまいか。
日韓慰安婦合意は保守派の一部から批判も受けた。が、筆者は歴とした安倍レガシーの一つと思う。それは慰安婦像について「韓国政府は関連団体との協議などを通じ、適切な解決に努力する」と謳う。ゆえにYTN記者のいう「民間団体への圧力云々」は的外れだ。日本政府は韓国の財団に10億円の拠出もしたが、これが元慰安婦の手に渡るのを正義連が邪魔したことも報道された。
隣の半島やその隣の国と違い、西欧は契約(約束)の社会だ。この合意で「この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」したことを含め、これらの韓国の所業を国際社会に知らしめることがいかに大事かを、ベルリンの出来事は物語っている。