空箱会社に資金が集まるアメリカ

先日台湾人の知人と食事をしていた際、彼の母親が台湾の合会に所属していたことで彼の人生が大きく開けたという話を聞きました。台湾には一種の互助会のような形で一般個人が資金を出し合い、ミニ銀行のようなものを組織し、資金が必要な人に貸すという仕組みがあります。

日本では無尽講、頼母子講などと呼ばれていたものと似ています。沖縄では模合(もあい)と呼ばれ、今でも半分近くの方が参加しているとされます。これらは庶民金融ともいわれますが、鎌倉時代にできたこのシステムは一般庶民が資金の融通ができないところから発達したものです。特に台湾では銀行は信用ある大手への貸し付けに偏重しやすく、自分の身は自分で守るということが染みついているとも言えます。

また、台湾の合会にしろ、沖縄や奄美の模合にしろ日本から見て南部の方で強くその歴史が残っているところに非常に興味がそそられます。

Strauhmanis/flickr

さて、空箱に資金が集まるアメリカと無尽講、私がなぜ、この2つを結びつけたかご説明します。

この空箱会社である特別買収目的会社(略称SPAC、Special Purpose Acquisition Company)の目的はとにかく会社を作る、資金を集める、上場する、だけど何も事業がない、こういう箱です。だから空箱と称しています。なぜ、こんな空箱に資金が集まるのか、といえば集まった資金でうまそうな未上場の会社を買収し、上場時の期待価値に対する利益(この場合、株価上昇)を得ながらインキュベーション(企業の孵化)を行い、更なる価値をつけて将来売却することを前提にしています。 よってこの会社の価値は会社を運営する経営陣の目利きがすべてであります。

このSPACは珍しいものではなく、20年前にもあったのですが、そこに利用価値を見出すようなことはあまりありませんでした。あくまでもIPOの手段の一つだったけれど異質だったといえます。ここ数年、急速に着目され、特に今年は19年の数倍規模の調達額に膨れ上がりそうです。

アメリカで空箱に資金が集まるのは何を意味しているのでしょうか?IPO前に個人投資家が初期から参入する手段なのであります。今までのIPOのプロセスとは一部の企業家たちや投資銀行が閉鎖的な世界を通じて世界中の将来性ある企業を見つけては投資し、ごく限られた企業のみがその恩恵に預かり、それらスタートアップが上場する際にIPOで利益を得るという仕組みでした。これを一般投資家にも可能性を広げたといってよいでしょう。

たとえはソフトバンクにしろビジョンファンドにしろ投資先に数多くみられる未上場の企業はどうやって見つけたのでしょう。そして孫正義氏はまさに将来性ある未上場株を大量に買い付け、それが上場し大きく成長した時、圧倒的な利益を計上することができたのです。ソフトバンクのアリババに対する投資などはその典型でありました。

つまり、台湾の合会と同様、一部の世界ではとてつもない資金が動き、莫大な利益を上げているのに一般人はその恩恵に預かれないとすればこれは庶民金融ならぬ庶民投資機構を作らねばならないという論理は確かに一理あるのです。

私がアメリカで空箱投資に集まる資金の話を聞いたとき、無尽講と何ら変わらないと思ったのは社会に2段階の明白な格差が生じている中で誰でも平等な機会を得るための手段であると考えたわけです。

話は飛びますが、日本の地銀再編の機運が高まっていますが、信用金庫や信用組合の話はあまり出てきません。信用金庫や信用組合は共同組織の非営利法人であり、私から見れば一種の無尽講の成長形であり、むしろ発展する余地を残しているかもしれない気がするのです。それらの組織は地域密着型で顧客は組合に加盟したり出資したりします。日本でも地銀再編でメガバンク主導の金融体制ができたら一般庶民や個人事業主には融通が利かず、困ることも増えるでしょう。そのための金融組織だと考えればどうでしょうか?

アメリカでSPACに資金が集まるのは投資の世界においてたとえ100㌦でも投資してみたいと思う人のためにあります。高層のきらびやかなオフィスビルの一室でごくわずかの利害関係者の間で資金が動くような時代に立ち向かう仕組みだとすれば応援をしたくなります。

但し、先述のように何に投資するかわからず、目利きの経営陣に全てを託すという点はなかなかハードルが高いでしょう。EVトラック開発の二コラ社もSPAC経由で上場していますが、株価が94㌦にまで跳ね上がった後、「二コラ疑惑」で今は25㌦程度まで下がっています。リスクと背中合わせという点だけは肝に銘じなくてはいけません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年10月13日の記事より転載させていただきました。