Nature誌がバイデン支持を明確に!私も意見を明白に!

中村 祐輔

今週のNature誌は、「Why Nature supports Joe Biden for US president」という、ちょっとびっくりするようなタイトルでバイデン氏支持を明確にした。

「We cannot stand by and let science be undermined. Joe Biden’s trust in truth, evidence, science and democracy make him the only choice in the US election.」というサブタイトルはバイデン氏を支持しているというよりも、トランプ大統領の全否定に近いようなコメントで、トランプ大統領の非科学的な姿勢を痛烈に批判し、真実、証拠、民主主義に基づいて信頼を取り戻すにはバイデン氏しか選択肢はないと述べている。

バイデン氏とトランプ大統領(バイデン氏Facebook、ホワイトハウスHPより:編集部)

地球温暖化現象そのものを否定、イランとの核合意廃棄、WHOからの脱退宣言など、国際協調から米国第一主義(米国孤立主義に見えてしまうが)などに加え、コロナ感染症に対する非科学的対策など、世界のリーダーとしての米国はどこへ行ってしまったのかと思わせるような4年間であった。

「信頼」は、どの分野においても重要なものだが、政治ではこれが最重要だ。しかし、今の日本の与党・政権に対する支持率の高さは、与党に対する支持ではなく、野党が全く信頼されていないために代わりがいないことの裏返しである。

民主党政権崩壊後、離散と集合の繰り返しがあり、それ自体が不信任にもつながるが、新党に対する支持率の低さは、民主党政権時の無策・悪夢の記憶が消えないことが主要因だ。当時と同じようなメンバーがいくら正論を唱えても、彼らがやったことと、今言っていることの乖離は埋めようがない。何を言っても、ダメだったという過去の事実は消せないものだ。

官邸サイトより:編集部

悪夢にもいろいろあったが、個人的な最大の悪夢は、東北メディカルメガバンクという無用の長物だ。津波被災者の長期健康調査からなるコホート研究を始めていれば、今頃は非常に貴重なものになっていただろうが、疫学・ゲノム・遺伝学もよくわからない人たちが集まって復興資金を無駄に使っただけだ。

しかも、3世代のDNAを集めて解析すれば、遺伝的な要因がすべて明らかになるとの戯言をいっているようだが、遺伝性疾患でもない限り、ありふれた疾患についてそのようなことを言うのは、無知に他ならない。生活環境が変われば、病気の種類も大きく変わる。アレルギーや自己免疫疾患などが増えているし、がんの臓器別の頻度も大きく変化している。

祖父母の時代と孫の時代では約50年間の違いがあるが、この間の生活環境は激変している。私の小さいころ、エアコンは行き渡っていなかったし、ドブ川から悪臭が流れ、夏になるとハエがブンブンと飛んでいた。多くの病気は遺伝的な要因と環境要因・生活要因の組み合わせで起こるが、後者が大きく異なる第1世代と第3世代では、遺伝的要因の違いをはっきりさせるのはかなり難しい。

まして、一般集団を追跡しても、特定の病気に対する十分な数の患者が集まるわけでもない。わずかな疫学と遺伝学の知識があれば、これくらいのことはわかっているはずだが、その知識さえおぼつかないようだ。九州大学が何十年も行っている久山町研究の爪の垢を煎じて飲むくらいのことが必要だ。

そして、集めたDNAのシークエンスをすれば、日本全体のコントロールになるとも主張しているようだが、これも遺伝子多型研究ですでに分かっている日本人集団の各地域間の微妙な多型の違い(多様性)がわかっていればありえない発想だ。難病解析のコントロールとして必須だと言っているようだが、コントロールと患者さんの地域間の偏りがあれば、膨大なノイズを生み出すだけである。科学における信頼が薄れているのは、その分野での常識を知らない人たちが主張する非常識によるところが大きい。

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(日本に各地域間での遺伝的多様性の違い)

日本人集団においても遺伝子多型から見た地域間の差はかなりある。下記の点の一つ一つが一人に相当する。左上の図の小さな塊は中国の漢民族に相当する。紫色は北海道の人たち、上の右側の青は東北地方、真ん中の左が関東甲信越地方、黄緑色(中央右)が東海北陸地方、左下の赤色は沖縄、下の中央が近畿地方、右側が九州地方の方々である。日本人は遺伝的に近いと言っても、それぞれの色の分布が少しずつずれているように、遺伝的多型の特徴は微妙に異なる。多様性があっても、お互いに認め合い、尊重するといった教育が必要である。

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これだけではなく、よくわかっていない人たちが議論して評価を下している日本の評価制度を見ていると、トランプ大統領の非科学的姿勢と五十歩百歩と言っても過言ではない。科学の評価においては、好き嫌い、学閥や徒弟制度を重要視せず、正しい情報と知識からなる広い視野での「総合的・俯瞰的な判断」が必要だと思う。

と久しぶりに辛口のコメントを書いてみた。こんな気持ちになることができたのは、きっと下記の理由だと考えている。

先週、私の大学の後輩である東邦大学大森病院眼科の堀教授に左目の白内障の手術をしていただいた。実質的な手術時間はわずか15分程度で、医療の進歩を実感した。翌朝には眼帯が外され、遠視も近視も改善され、曇っていた視界がはっきりした。私が眼科実習をしていたころとは別世界だ。文庫本を普通に読めるようになって感激している。不思議なことに左肩の凝りもすっきりした。この3-4ヶ月煩わされた左目の視野の濁りがウソのように消え去った。そして、頭の中のもやもやとした霞が消え去り、日本の科学の不透明さがはっきりとなり、脳に強い刺激を与え始めている。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年10月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。