PwC財団設立と、コロナ禍の社会課題について

藤沢 烈

今年5月に、PwCグループが一般財団法人PwC財団を立ち上げました。鵜尾雅隆さんと共に私も理事を務めています。代表理事であるPwCコンサルティングの安井正樹常務と鼎談した内容が公開されました。内容を紹介します。

コロナによって、社会の二極化が進む

藤沢『今起きている変化には功罪どちらもあると思っています。デジタル化でいえば、教育や医療、働き方などさまざまな領域で新しい価値が生まれていますが、その恩恵を享受できているのは比較的裕福な層に限られます。学校でオンライン授業が導入されても、大画面のモニターやパソコンがあって常時ネット接続できる家庭と、デバイスは親のスマートフォン1台だけという家庭では、活用できる環境に差があります。テレワークにしても、誰もが移行できるわけではなく、特に所得が低い職種の多い対面サービス業では難しい場合が多い。変化の恩恵を受けられるかどうかによって、従来の格差がさらに拡大し、二極化が進む側面があるのです』(鼎談より)

オンライン授業やテレワークはプラスの側面で語られることが多いのですが、その裏側には対応できずに教育の機会を失ったり、仕事を失った方も少なくありません。現代の社会課題は「見えない」問題ばかり。社会が激変するときには、声を上げられずに苦しんでいる方がいることを、意識しつづける必要があります。

コロナによって、社会サービスが拡がる

鵜尾『災害復興では、被害を受ける前の状態に戻すだけでなく、それを乗り越えてさらに良いものを作ろうという「Build Back Better(BBB)」と呼ばれる考え方があります。その視点から考えると、COVID-19が収束し、再び以前と同様の支援が可能になれば、リアルでもオンラインでもサービスを提供できるようになります。例えば、これまでの対面の支援では首都圏など一部の地域でしか活動していなかった団体も、オンラインでのサービスを実現したことで北海道から沖縄までを支援の対象にできるように』(鼎談より)

コロナによって社会課題が増え続け、支えるはずのNPOもダメージを受けています。一方で、社会サービスが進化した側面もあります。

例えばRCFは地域の仕事がメインです。これまでは必ず地域に足を運び、膝と膝をつき合わせて人間関係を築くことが基本でした。これが、最初の顔合わせは対面が望ましいものの、ある程度の打ち合わせはオンライン化が進み、メッセンジャー等と組み合わせて細かい意思疎通が可能になっています。地方と都市の関係が深まっているのを感じています。

コロナ禍だからこそ、NPOもデシタル化が必要

藤沢 『NPO自身もデジタル化が重要だと思います。RCFや日本ファンドレイジング協会を含む複数の団体で「こども宅食」という事業を手がけているのですが、この事業では以前から利用者とのコミュニケーション手段としてメッセージングアプリを使っています。これは2つの意味で効果的です。通常、行政からの支援を受けるためには窓口に出向いて大量の書類を書かなければなりませんが、アプリで申し込みができれば、サービス利用の敷居が下がります。加えて、一度メッセージングアプリを通じてつながれば、その後も継続的に利用者と連絡が取れます。こちらから情報を送ることも、利用者側からSOSを発信してもらうこともできる。プライバシー意識の高まりもあって、隣に誰が住んでいるかも把握しづらくなっている現在、デジタルサービスがかつての地域共助を代替する仕組みとして機能する可能性が見えてきています』

だからこそ、NPOのデジタル化が必要です。東北復興に関わって最初に意外だったのは、三陸沿岸の町であっても、多くの住民は市街地に住んでいて、隣近所との関係は都会同様に希薄になりつつあるということでした。ですから、仮設住宅でも復興住宅でも、住民の孤立化や孤独死が問題となりました。

日本には「ご近所」のような濃密なコミュニティはほとんどなくなりました。昔ながらの「共助」は姿を消していて、町内会も民生委員も高齢化で機能しなくなりつつあります。新しい共助となる非営利組織が、さらに役割を増やしていく必要があります。

デジタルはその強力なツールになるてじょう。例えば、災害が発生しても被災した方が必ずしも避難所に行くわけではありません。地震の場合、余震を恐れたり、家族やペットのことを気遣って避難所に行けない方がいます。水害の場合、1階が水に浸かっても、そのまま二階に住み続ける方が少なくありません。こうした方々を支援するときに、被災者がもつスマートフォンに情報をプッシュで送れれば、避難所に来てくれればお弁当を渡せる事や、生活再建に必要な法律情報を届けることができます。

行政資源に限界がある中で、非営利組織は支援規模を一桁も二桁も上げていく必要があります。NPOは、自分たちのサービスをデジタル化し、そのことで支援の量と質を上げられないか、考え続ける必要があります。

PwC財団について

PwC財団はまだ設立されたばかりですが、コンサルティング会社の強みを生かしていきます。従来の財団のようにただ助成するにとどまらず、自ら解くべき社会課題を設定し、深い分析や洞察の上で、いかなる事業に対して支援すべきかを考え、ソーシャルセクターを巻き込んでいくことをお願いしています。新しいタイプの財団になっていくと思いますので、ご期待下さい。


編集部より:この記事は、一般社団法人RCF 代表理事、藤沢烈氏の公式note 2020年10月17日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は藤沢氏のnoteをご覧ください。