【特報】富山知事選「県庁ぐるみ新疑惑」文書配布、違法指摘も

アゴラ編集部

富山県庁(編集部撮影)、石井隆一知事(公式サイト)

富山県庁内で県知事選直前の10月初旬、現職の石井隆一氏陣営が選挙期間中に企画していたネット動画の視聴参加を呼びかける文書が幹部らに配布されていたことが22日、明らかになった。

アゴラ編集部はこの文書を入手。山崎康至副知事は取材に対して10人いる部局長の半数程度に個人的に配布したことを認めた。

山崎氏は「(知事選)各候補の政策を研究してもらうためだった」と説明しているが、部局長以外の職員間にも広がっている可能性も浮上。関係者の中には「県庁職員を選挙に協力させる意図が感じられた」と証言する人もおり、公選法で禁じる公務員の地位利用などに抵触する可能性も指摘される。

アゴラ独占入手の文書の中身

関係者によると、問題の文書は、知事選スタート1週間前の10月1日ごろに県庁内で配られた。編集部で入手した文書は、石井知事の陣営が選挙戦中盤の18日15時に予定していた「デジタル総決起大会」への参加を呼びかけている。

編集部で入手した問題の文書

その書き出しでは、

石井さんが県知事選挙への決意を語る他、国会議員などの応援弁士がなぜ石井さんを応援するのかを語ります。多くの方にこのイベントをお伝えし、参加してもらいたく思います。

とした上で(太字は編集部)、400人〜1000人の動員目標を明記。「声掛け部隊50人が各20人の参加者を募りましょう!」と動員を念押ししていた。そして文書の後半では、LINEやFacebookメッセンジャーを使って、当該イベントを中継するYouTubeライブのURLの送り方などの手順を解説している。

さらに文書の最後では

演説会場への動員同様、1人1人が声をかけていくしかありません。みんなで力を合わせて勝ちましょう!!

と気勢を上げる形で締め括っている。

山崎副知事「政策の参考に部局長に配った」

山崎副知事(富山県サイト)

山崎副知事は22日夕、アゴラの電話取材に応じ、「各候補の政策を研究してもらうために部局長に配った」と、文書を配布したことを認め、この文書は石井選対から譲られたことも明らかにした。

ただ、文書を配布したのは、石井氏に限らず、新田八朗氏ら他候補の政策についても情報収集している一環のことだとした上で、「選挙後には11月議会が始まり、来年度の予算編成に入るため、それに備えておかなければならない」と実務上の必要性を指摘。この日、弁護士にも改めて確認して問題がなかったとの立場を強調した。

しかし、文書は石井氏のマニフェストなどの政策文書ではなく、選挙イベントの告知であり、選挙運動性が非常に強い。

公選法では、公務員が職務上に地位を利用して選挙運動することを禁止しているが、石井陣営としては視聴者数を少しでも増やし選挙戦の勢いをつけたい中で、県庁内で、視聴を呼びかける文書を配布することについて、職員の中には、動画視聴という形で、選挙協力を暗に求められているとの見方もある。

これに対し、山崎氏は「そのとき(配布したとき)はそういう認識はなかった」と述べ、選挙運動目的での配布をあくまで否定した。さらに、文書を渡した部局長からその部下への配布については「指示していない」とし、石井氏や選対から配布依頼があったかについても「なかった」と強調した。

しかし、庁内には、配り始めたのが山崎氏だと知らなかった人もいるようだ。仮に山崎氏が把握していなかったにせよ、この証言が事実だった場合、副知事や部局長以外にも、県庁内の一部職員の間で文書が出回っていた可能性もある。

県のサイトによると、山崎氏は1979年に県職員となり、厚生部長、知事政策局長兼危機管理監、経営管理部長などを歴任した後、2017年9月から副知事を務めている。

専門家「地位利用に当たる可能性」

公務員の地位利用を巡っては、職務上の指揮命令権、人事権、予算権などに基づく影響力を行使して、公務員が部下らに対し、投票を勧誘することが要件に当たるとされる。1964年の名古屋高裁の判決では、指揮監督権がなくても人事、予算等に影響力を有する地位のある場合には、地位利用が適用されるとしている。

検事時代に数々の選挙違反事件を手掛けてきた郷原信郎弁護士は、「問題の文書は動員をかけており、地位利用に当たるとみなされる可能性がある」との見方を示し、告示前に選挙期間中のイベント告知を配布したことについても「(公選法で禁じる)事前運動に抵触する」と指摘した。

北陸地方の県警捜査二課幹部として長年、選挙違反事件などを手掛けた警察OBは「上位者が配布を指示したとすれば地位利用が成立する」と富山県庁の疑惑に関心を寄せている。

富山県知事選を巡っては、告示直前に県庁職員が石井知事陣営の選挙関連の文書づくりに関与していた疑惑がアゴラのスクープで浮上。石井氏は釈明に追われたまま選挙戦に突入したが、投票日の2日前になってまたも「県庁ぐるみ」の疑惑が浮上した形だ。

ここまで浮上した疑惑のうち、知事の政策集案と今回の動画告知文書は、山崎氏が幹部に「参考資料」として共有する形で主導したように強調しているものの、石井知事による指示が本当になかったのかも焦点になりそうだ。地元メディアは選挙戦への影響を考慮し、投票日まで報道を自粛するとみられるが、選挙戦終了後、捜査当局の動きも含め新展開があるのか注目される。