世界ゆるスポーツ協会代表理事・澤田智洋さんの新刊『ガチガチの世界をゆるめる』を拝読しました。
澤田さんと初めて出会ったのは、2017年の地方創生カンファレンス「まちてん」。視覚が不自由な人に、身体障碍者などがカメラを通じて視覚をシェアするBody Sharing Robot「NIN_NIN」など、ユニークな発想で、関係性を築くプロジェクトにとても共感を覚えました。
『ガチガチの世界をゆるめる』は、澤田さんの活動の集大成。名物コピーライターの澤田さんらしく、
「決まりですから」「もう何年もこのやり方でやってきましたから」
頑なにガードをかためて、心をピクリとも動かさない人。いませんか?いますよね。ガチガチな人。そんな人たちが集まってできているのが、このガチガチ王国・日本です。
という衝撃的な書き出しで始まり、一気に惹きつけられます。
活動の原体験は、自身のスポーツ黒歴史、そして息子の障害。「今のままで、息子が幸せになれる社会をつくろう」という強い思いが根幹にあります。
障害や疫病は皮膚の”内側”にあるという「医療モデル」ではなく、皮膚の””外側””にあるという「社会モデル」としてのアプローチです。
今の体育は、優れた国民(兵士)を育てるという目的が強くなり、多くの人がスポーツ弱者になっているという問題意識のもと、スポーツをゆるめた「ゆるスポーツ」では、
1「老・若・男・女・健・障」誰でも参加できる。
2 勝ったらうれしい。負けても楽しい。
3 プレイヤーも観客も笑える。
4 第一印象がキャッチー
5 何らかの社会的課題の解決につながっている
という5つのポイントで、澤田さん始め300名以上のスポーツクリエイターがスポーツを開発しています。
例えば、ハンぎょボール。毎年、ハンドボールの全国中学生大会が開催されている富山県氷見市で生まれたのが、「ハンぎょボール」。基本的なルールは、ハンドボールと同じですが、いくつかのオリジナルルールがあります。
1.ゴールを決めると脇に抱えたブリが「出世(巨大化)」する(コズクラ→フクラギ→ガンド→ブリ) 。ゴールをした時は味方チーム全員で「出世」とコールする。
2.ブリを脇に挟んだ側の手を必ず使ってボールを投げる。ゴールキーパーは両脇にウキを挟む。
3.反則をすると「冷蔵庫」へ送られ、相手がゴールを決めると全員復帰できる。など
適切なハンディがあるので、ハンドボールが上手い人も、下手な人も、楽しめます。また、ゲームを通じて、氷見市の特産のブリについても学び、愛着を持つことができます。
スポーツという本来的にはとっても楽しいものを通じて、体感的に、直感的に、世界そのものを愉快にしたいとの思いが伝わってきます。
世界ゆるスポーツ協会
ゆるめるための4ステップとして、
1・自分が排除されているものをさがす(課題抽出)
2・そのものの本質を見直す(本質定義)
3・なぜ排除されているか「非ゆる」をリスト化する(課題分解)
4・本質を残したまま非ゆるをつぶす(ゆる化)
を掲げ、徹底的に考え抜きます。このプロセスや具体例は、決してゆるくないのですが、ゆるスポーツだけでなく、あらゆる分野に応用できそうです。そういう意味でも、とても深い本です。
ストイックな修行をいらないとする浄土宗、大皿に海の幸も山の幸も盛り込むさわち料理、300種類以上あるキットカットなど実は日本はもともと”ゆるい国”だったという分析”マイ解釈”も秀逸。さらに、ゆるは、緩めるだけでなく、許す、聴すに通じる言葉だと説かれます。
僕は、日本のほとんどの問題は一極集中と同調圧力から生まれていると考えていますが、日本の同調圧力をもゆるめる「ゆるスポーツ」や「ゆるミュージック」、これからも応援していきたいです。
編集部より:この記事は、井上貴至氏のブログ 2020年9月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。