私のように極小企業で少数の従業員が各拠点で1-2人体制で業務をしている場合、私が事務所で仕事をしなくてはいけない理由は少ないと思います。事実、週末は家のパソコンから仕事をしているし、半分ぐらいの業務は支障なく進められます。それでも私は事務所に行く理由は何でしょうか?在宅では超えられない壁がある気がするのです。
ZOOMでの会議やミーティングは今やごく普通に日常に溶け込んでいます。少なければ週に数回、多いと一日で6回という日もありました。これだけオンライン会議をやっているとあることに気が付きます。それは「これほどつまらぬ会議もない」であります。
実際に人が集まる会議ではしゃべっている人に対して廻りの反応やささやき、それこそ息遣いで流れが読めるものです。話の内容に「これ、ちょっと違くないかい?」と隣に座っている人につぶやいた経験者は多いでしょう。つまり場の雰囲気というのが生まれるのです。ところがオンラインだと何の空気も感じません。なぜでしょうか?
オンラインは基本的にしゃべる人が一人に限定され、その一人に会議参加者が全員付き合わされるという「弱点」があるのです。プレゼンが短く、要点をまとめたものならよいのですが、とりとめのない話や自己主張を延々と繰り広げる場合、どうしても聞く側の集中力は落ちてしまいます。会議室の会議ならば「ちょっと話を元に戻しましょう」とか「つまり要点は?」といった声が入りやすいのですが、オンラインではそれが少ないのです。ある意味、非効率な部分が見えてきたような気がするのです。
総合商社第2位の伊藤忠商事が勤務状態について一定の在宅を認めたうえで「出社が基本」という姿勢を打ち出しています。同社は春の感染時もどうにかして出社体制を維持しようと考えながらも世の中の事情、感染状況を見ながらかなり流動的にルールを変え、社員への出社を促してきました。
同社の鈴木善久社長は「社員一人ひとりが『商人』であることを非常に大事にしています」(日経ビジネス)と述べ、生活消費にかかわるビジネス比率が高い同社に於いて社員一人ひとりがエッセンシャルワーカーという発想だと述べています。
異論はあるでしょう。同社の労組が行った社内アンケートですら会社の考え方や理念、通常出社への基本姿勢に関し「理解もできなければ共感もできない」人が3割いたとあります。無理強いはできない、だけど会社としての明白な指針を打ち出したのは商人魂として非常に強いメッセージだと思います。
私がZOOM会議をしていて気になるのは参加者の服装と背景であります。まず、服装が概ねカジュアル。この格好でビジネスの話をするんかい、という方もいます。次に背景。自宅をそのまま映す人、借景にする人いろいろです。私は自宅からの場合なるべく背景から何も想像できないシンプルな壁をバックグラウンドにしています。生活の様子が見えてしまうような背景はアウトでしょう。借景でもビジネスにふさわしくないハワイなどのリゾートとか、山と海の美しい場所といったものを選択する人がいますがこれもおかしい気がします。
皆さん、パワーランチという言葉を覚えていますか?1時間のランチタイムで最高効率のビジネスランチをするという考え方でかなり前からあり、時折それが思い出されるように復活します。私が昔読んだパワーランチ系の本に客には壁側が見えるように座らせろ、という一節がありました。なぜか、といえば客は自分以外に見るところがなく話に集中できるから、というものでした。オンラインの背景もこれと同じ考え方です。
私は「オンライン会議が便利」と答えた方々の多くは電話のやり取りが極端に減った今、顔を見ながら話ができることに進化を感じているのではないかと思うのです。つまり、コロナ→在宅→オンラインという流れではなくてIT化→SNS主流→テキスト主体で声も顔も見えないことが改善されたのではと勘繰っています。
仕事はパソコンがあればこなせる部分が多いことは確かです。(スマホやタブレットでは画面が小さくて分割画面での作業ができないから無理)しかし、事務所の椅子に座った瞬間に入る仕事モードに勝るものはありません。私の場合、トイレに行くのも忘れるほど集中して仕事できるのは自分の仕事場所という脳からの指示効果が大だと思っています。映画館での集中力はなぜ起きるのか、といえば暗い客席に座る人全員が同じ世界に入り込むからなのです。この意味を考えると私は伊藤忠の出社が基本という考え方には奇妙に共感してしまうのです。
仕事のピリピリムード、大事だと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年10月26日の記事より転載させていただきました。