大阪都構想:既得権者の反対をローマ史から読み解く

大阪都構想をめぐる論戦が大詰めを迎えています

photoB/写真AC:編集部

私は千葉県佐倉市の市議会議員であり、日本維新の会に所属しているわけでもありません。しかし、この住民投票の結果は、日本の在り方を変える可能性のある「大きな決定」であると考えているため、私の考えを申し述べさせていただきます。

双方の主張を読んでみて思うのは、日本維新の会等が主張している「二重行政の解消」は、大阪にとって非常に重要だ、ということです。

確かに、今は大阪府知事と大阪市長が同じ政党に所属し、タッグを組んで行政をけん引しているから顕在化していませんが、かつて「府」と「市」のいがみ合いから、りんくうゲートタワービル(大阪府)とワールドトレードセンタービル(大阪市)を「競争して」、「莫大な税金を投入して」建てたことを見れば、それだけで二重行政の弊害はわかろうというものです。

このような象徴的な事業はそれこそごまんとあるし、その足の引っ張り合いが大阪のブレーキとなっていたことも、あらかた皆知ってはいます。

さらに、知事や市長が変われば、双方の考えの違いから大阪の推進力は大きく削がれ、元の状態に戻ってしまう可能性がある。この「属人的な関係」によりかろうじてうまくいっている状態を、役割分担を明確にすることで制度的に裏付けのあるものにしよう、というのが「大阪都構想の本質」で

それで、なぜ大阪の人たちの多くは都構想に対する態度を決めかねているのか。今回の記事では、塩野七生氏が書いた「ローマ人の物語 キリスト教の勝利」から、その理由を考えたいと思います。

既得権者は激しく抵抗するが、改革で利益を得る者は改革の意味を理解しない

上記タイトルの文庫版の39巻「中」に描かれている、ユリアヌス帝という皇帝が実施した改革とその挫折の部分を紹介します。

この皇帝は、後にローマを崩壊させることになるキリスト教徒や宦官といった既得権者たちに対する優遇政策を廃止し、ローマ再建を目指しますが、道半ばで挫折し戦場で亡くなります。

ユリアヌス帝が打ち出す改革は、ローマを立て直すという点でいえば理にかなったものでした。しかし、ローマ市民の圧倒的な支持を得るまでにはいかなかった。それはなぜか?

塩野氏は、その点を分析して以下のように述べています。

改革がむずかしいのは、既得権層はそれをやられては損になることがすぐわかるので激しく抵抗するが、改革で利益を得るはずの非既得権層も、何分新しいこととて何がどうトクするのかがわからず、今のところは支持しないで様子を見るか、支持したとしても生ぬるい支持しか与えないからである。

(中略)

官僚機構は、放っておくだけで肥大化する。それは彼らが自己保存を最優先するからで、他の世界とはちがって官僚の世界では、自己の保存も自己の能力の向上で実現するのではなく、周辺に同類、言い換えれば“寄生虫”を増やしていくことで実現するのが彼らのやり方だ。

ゆえに彼らに自己改革力を求めるくらい、期待はずれに終わることもない。

上記でいうところの「官僚機構」とは、この本では「皇宮の宦官」であって、ユリアヌスは徹底した皇宮のリストラを断行しました。

当然、宦官たちは激しく抵抗します。しかし、官僚機構が肥大化したことで、防衛体制が脆弱になってしまったローマが幾度となく蛮族の侵入を許し、都度地獄をみていたはずのローマ市民は、ユリアヌス帝の改革が意味することの本質を理解できず、「生ぬるい支持」程度で傍観者になってしまう。

このような事例は、紀元前のローマで農政改革を志したグラックス兄弟の悲劇など、ローマ史を紐解くだけでも枚挙にいとまがありません。

ひるがえって、大阪都構想について。

反対しているのは、「ことの本質」には触れようとせずに怪しげな数字で批判の煙幕をはる政党や組織です。

広域行政に口を出せれば、政治家はその権利権力を使ってアクセルやブレーキを自在に踏める。そこを温存した結果仮にこの先府と市がいがみ合い大阪の発展を阻害することになっても何の問題もない。彼らが守りたいのは「政治的既得権」だけだからです。

思い出せば、自民党が「府と市の調整」に関して、都構想の対案として出した「大阪戦略調整会議」は、一切機能しないまま幕を閉じました。

塩野氏の言葉を借りるならば

政局に明け暮れている政治家たちに改革力を求めるくらい、期待はずれに終わることもない。

となるでしょうか。

自民党大阪市議団の北野幹事長は街頭演説で、

「(大阪都構想の)賛成派は、広域の事業をこれからは知事が全部決めると言っている。とんでもないことで、特別区の区長や区議会議員を選挙で選んでも口をはさむなとなりかねない。彼らが目指しているのは司令塔の一元化と言いつつも、大阪における独裁だということをご理解いただきたい」

とおっしゃっているそうです。それでは、東京は都知事の独裁ですか?トホホです。

「大阪都構想」の賛否を問う住民投票は、11月1日投開票です。

都構想の本質は何なのか」という点にだけでも、ぜひ思いをはせて一票を投じていただければと思います。