世界全体で1日の新規感染者確認数が50万人超となっている、1日の死者数は7000人を超えている。世界での新型コロナウイルス感染者数は4500万人を超し、米国単独でもあと1週間で1000万人を超える勢いである。
そのような中で、英国ではコロナウイルスワクチン投与後に、コロナウイルスに暴露させて、ウイルスワクチン効果を確認する試験が行われている。このような臨床試験に対して、日本では人体実験だと批判する声が強い。ワクチン開発が急務とされる中で、このような形で有効性を確認することは、非倫理的なのかを考えてみたい。
韓国ではインフルエンザワクチン投与後に死亡した人が80人を超え、ワクチンの安全性に疑問の声が上がっている。冷凍して運搬するはずのものが、室温で運搬されたために、ワクチンが変性したのではなどと指摘されているが、何が原因なのか今ひとつよくわからない。ワクチンをどのように保管し、運搬するのかなど、基本中の基本である。ワクチン評価に際して、このような基本的注意事項が出鱈目なら評価が難しくなる。
日本の専門家の大半は安全性が最優先だと言う。しかし、現在の世界の状況は、1日1万人を超える感染者がでている国は、10万人を超える米国を筆頭に、インド(48000人)、フランス(49000人)、ロシア、ブラジル、スペイン、アルジェリア、コロンビア、英国、イタリア、ドイツ、ベルギー、オランダ、ポーランド、チェコなど14か国に及ぶ。フランスの人口は日本の約半分であり、オランダは1700万人、ベルギーは1100万人であり、日本より一桁少ない。6月にスペインで確認された変異ウイルスが感染性が高く、それが拡散しているという推測もある。
今後、本格的な冬を迎える北半球では、感染者がさらに増え続ける可能性がある。日本では、「冬になっても換気を定期的に」と繰り返し述べられているとが、北海道や東北、北陸、信州地方でそんなことが現実的に可能なのか?
シカゴでの6年間を振り返っても、実生活で1時間で5分の換気などできるはずもない。日が暮れるとマイナス10-20度の環境下で換気すれば、室内はあっという間に氷点下となる。シカゴの明日の最低気温予想はすでにマイナス3度である。
そのような中、世界で1日50万人の新規感染者、1日7000人の死亡者数という現実を見ても、英国で行われていることを人体実験で危険なことと批判するのが本当に倫理的なのかどうかを考える必要がある。トランプ大統領の言った「選挙前のワクチン承認」は叶わなかったが、この現実を前にして、ワクチンが(もしできるならば)投与が急がれるのは当然だ。
感染で亡くなってしまうので人為的でないので仕方がないが、ワクチンという人為的行為で亡くなる事態はけしからんという思考は絶対的に正しいのか?今のペースでは1か月で20万人がコロナ感染で死亡する状況となる。
さらに感染者数が増えれば、コロナ感染で亡くなる人が増えるだけでなく、医療崩壊が起こり、助けるべき命を助けることができなくなる、当然ながら、他の疾患の治療へも大きな影響が出る。経済的なダメージや精神的な面での悪影響などからの死亡者数の増加への懸念もある。
ワクチンの安全性確保は重要だが、この目を覆いたくなるような感染拡大下では、リスクを慎重に判断しつつ、早く投与を開始するという判断も求められるのではないのか?
日本の感染者数では、そこまで踏み込むのは難しいが、感染者数が急増した場合を想定した議論が必要だ。もちろん、早く投与するとしても、未知のリスクを覚悟で、早く投与してほしいと希望している人から投与を開始すべきだと思う。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年11月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。