米国の大統領選挙の結末は見えない。投票結果はあと数日以内に出るだろうが、トランプ氏が結果を認めない限り、訴訟沙汰が続くだろう。
4年前の米国大統領選挙の投開票の当日、私はメキシコシティーにいた。元駐日メキシコ大使夫妻と夕食を共にしていた。大使夫人が滞日中に、私の研究室で研究をしていた関係で、メキシコに戻った後も交流が続いている。
一昨年と昨年は、東大医科学研究所の宮野研究室と私の研究室のメンバーがメキシコに向かい、講演会とゲノムデータの利用についての講習会を開催した(私は講演をするだけで、ほとんど役に立っていないが)。昨年は、日本を襲った台風の影響で、日本へ向かう便が欠航となり、2日間メキシコに足止めを食らった。今となれば、懐かしい思い出だ。
4年前に話を戻すと、元駐日大使は、今はメキシコ外務省の幹部なので、私も気を遣って「私と食事をしていて、米国大統領選挙の結果は大丈夫なのですか?」と尋ねた。即座に「ヒラリーが勝つので大丈夫」という返事が返ってきた。
しかし、開票が進むにつれて、トランプ勝利の可能性が高まり、米国の州別のマップは赤色が多くなってきた。それと反対に、スマートフォンをのぞきこむ元駐日大使の顔は青くなり、真剣になってきた。食事を早々に切り上げ、夫妻は帰宅したが、翌朝夫人に様子を聞くと、ご主人は外務省に向かって戻ってこなかったそうだ。予期せぬ結果となったのは、皆さんご承知の通りだ。
そして、今回も、バイデン氏優勢と報道される中で白黒はつかず、まだ、5-6州の決着はついていない。アリゾナ州をバイデン勝利と報道しているメディアはあるが、大半のメディアは灰色のままだ。トランプ氏の粘り腰には驚嘆の一言だ。
4年前のことを思い起こすと、これから何が起こっても不思議ではない。CNNには各郡や市の選挙結果まで掲載されているが、都市部は民主党、それ以外は共和党の様子がはっきりと見て取れる。
しかし、誰が見てもフェイクとわかることを、ツイッターで呟き続ける精神力はたいしたものだ。ある意味では、こんなトランプはすごいと思っていたが、日本人でも平気で恍ける人がいて、今朝の日米ウェブ会議で切れてしまった。
日本支社の人と何度も確認したことを、米国本社の人を前に「私は記憶力が悪いのでそんなことは覚えていません」と平然と言いのけたのだ。外資系の日本支社はほとんど権限がないが、約束事を記憶力が悪いのでと知らんぷりをされては二の句が継げない。そこで、「記憶力が悪い人とはこれ以上話はできない」と言ってウエブ会議を終えた。
政治家でもあるまいし、記憶力が悪いので何も覚えていないと言われては、交渉事はできない。嘘やごまかし、誹謗中傷など研究者の世界では日常茶飯事になってきた。清い水には澄みにくいと江戸時代の歴史で習ったことがあるが、多少の濁りではなく、ヘドロのように澱んだ水になってきた平成・令和時代に日本の明日があるのか?誠意と努力の人が報われる世の中になってほしいものだ。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年11月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。