規制緩和路線を支持する労働者って『肉屋を支持する豚さん』なの?と思ったときに読む話

城 繁幸

nicoolay/iStock

今週のメルマガ前半部の紹介です。先日、こんなネタがネットで話題になりました。

【参考リンク】ひろゆき氏 非正規雇用にメリットがあると思い込んでいる労働者は「肉屋を応援する豚」

さすがに氷河期世代で騙される人はいないでしょうが、コロナ禍世代には新鮮に映っちゃうかもしれないのできちんと論点整理をしておきましょう。キャリアというものを考えるよいきっかけにもなるはずです。

非正規雇用の敵は経営者?それとも……

さて、問題ですが、非正規雇用労働者の敵は誰でしょうか。上記リンクが言うように経団連をはじめとする経営者でしょうか。結論から言うと、経営者はそもそも労働者とは利害対立しないので中立の立場です。

というと「リーマンショックの時もコロナ禍の時も非正規を使い捨てにしたじゃないか」なんて人がいそうですが、経営者は規制や判例で決められたルールに沿って人件費を分配し、雇用調整を行ってるだけです。

終身雇用下で積みあがった判例で正社員の雇用や年功賃金にメスが入れられないから、実際に不況が来たら非正規雇用をスパッと雇止めにしてるだけです。

派遣3年、有期雇用5年までとかいう滅茶苦茶なルールを誰かが後から作るから、非正規雇用の人達には「誰でも出来ていつでも入れ替え可能な安い仕事」だけを押し付けるしかないわけです。

結果、日本の非正規雇用は「不安定雇用なのに低賃金」という市場原理を超越した悲惨な状態になっているわけですね。言い換えるなら日本社会がそういう枠組みを既に作っちゃってるわけで、経営者はそれに従っているだけなんです。文句がある人はそういう枠組みを是としている社会に対して声を大にして言いましょう。

では、正社員の労働組合はどうでしょう?非正規雇用の味方なんでしょうか?限りのある人件費を奪い合う間柄なわけで、こちらは明確に敵だと断言できますね。

というと今度は「同じ労働者同士、連帯すべきなんじゃないのか!」とかいう人がいそうですけど、もうそういうのは10年以上前の派遣切りの時にさんざん連合とやってるわけですよ。

どこかの討論番組でも当時の連合会長が「同じ労働者同士、非正規雇用ともしっかり連帯しますよ」とかいうからてっきり正社員の賃金下げてワークシェアでもするのかと思ってたら非正規雇用の電話相談窓口を設置しただけでしたね。

「よくやった!これこそ連帯だ!」って喜んでる非正規の人には会ったことないですね。「は?それだけ!?」って怒ってる人はいっぱいいましたが。

そもそも、ネットではなぜか全部竹中さん発案になってる労働分野の規制緩和というのは、95年の「新時代の日本的経営」(日経連)がベースとなって議論されてきたものです(ぶっちゃけ平蔵さんは全く関係ないです(笑))。

その提言においては「非正規雇用を活用することで正社員の長期雇用を守る」と言う雇用ポートフォリオが示されています。もちろん“守られる側”である連合も黙認しています。

グローバル化が進む中でこれまでのような安定成長が見込めない以上、「普段は一緒に働きつつも、不況が来たら自分たちの代わりにバッサリ切られてくれる労働者」が必要なことは彼らもよく理解していたからです。要するに“たまよけ”ですね。

一時期国会で取り上げられた偽装請負(まあこれ自体大した話でもないですが……)なんかもそうで、あれは正社員を請負会社に出向させて請負労働者を実質的に正社員の指揮系統で働かせてるから請負じゃないだろうという話が多かったんですが、組合員を出向させてる時点で組合が「知りませんでした」というのは通るわけないですね(苦笑)

まとめると、“たまよけ”を必要としていたのは労使双方であり、「別にどっち切ってもいいけど」という経営側より「自分たちだけは何があっても守ってくれ」という労組の方が明らかに非正規雇用と利害は対立しているわけです。

あ、それから以上のことは別に筆者だけが言っていることではなくて、OECD対日審査報告書などのように「正規雇用が守られすぎであることが日本の格差の元凶である」旨は繰り返し勧告されている事実です。筆者に反論したい人はまずOECDにも反論してくださいね。

でもそういう場合はどういうロジックで反論するんですかね。「正社員は悪くない。日本の格差は非正規雇用労働者の努力不足が原因で自己責任だ」とでも和製リベラルは言うんですかね(苦笑)

【参考リンク】若年層の安定雇用のために日本がやるべきこと

以降、
民主党政権が実現したもの、打ち砕いたもの
解雇規制緩和以外に格差を是正するアプローチ

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Q:「就活に際して父が『好きな仕事なんて探すな。会社に与えられた仕事を好きになれ』とアドバイスしてくるんですが」
→A:「会社選びのポイントはズバリ……」

Q:「前職からの出戻りオファーは受けても問題ないですか?」
→A:「向こうからオファーしてきたのなら問題ないでしょう」

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2020年11月12日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。